IgE糖鎖特異的に作用する薬剤はこれまで存在せず
愛知医科大学は3月29日、IgEの機能を阻害してアレルギーを制御する物質がコレラ菌抽出物の中にあることを見出したと発表した。この研究は、同大学医学部感染・免疫学講座の山崎達也助教、高村祥子教授らの研究グループが、産業技術総合研究所・創薬基盤研究部門、順天堂大学・アトピーセンター、熊本大学・薬学部及び愛知医科大学分子医科学研究所と共同で行ったもの。研究成果は、米国科学誌「The Journal of Biological Chemistry」でオンライン公開されている。
画像はリリースより
即時型Ⅰ型アレルギーの主役を担っているIgEは、5種類の抗体の中で最も糖鎖修飾されている抗体でもある。糖鎖修飾は、タンパク質そのものの構造や機能に大きく影響するため、IgE糖鎖もアレルギー治療薬の標的として考えられるが、IgE糖鎖特異的に作用する薬剤はこれまで存在しなかった。
コレラ菌抽出物RDEの中にIgE機能を阻害する物質を発見
研究グループは、市販のコレラ菌抽出物であるReceptor destroying enzyme(RDE)の中にIgEの抗原への結合能を阻害する物質が存在することを、別の研究を行っている最中に偶然発見したという。
RDEで処理したIgEは未処理のIgEと比べて抗原への結合能が大きく低下し、またIgEの分子量も低下していた。この変化は精製IgEだけでなく、抗体遺伝子で強制発現させた細胞上清中のIgEや、マウスの血清中に存在するIgEでも認められた。これらのRDE処理に伴う変化はIgGでは認められなかった。
また、肥満細胞にIgEと抗原を順次加えて活性化させヒスタミンやサイトカイン産生を見る実験系で、RDE処理後IgEの場合にはいずれの産生も大きく減少することを確認。さらにマウスにIgEと抗原とを順次加えて即時型アレルギーである受動皮膚アナフィラキシーを見る実験系においても、RDE処理後IgEの場合には耳の末梢血管の透過性亢進や血管外への血液成分漏出が、ほとんど認められなかった。以上によりRDEはIgEの機能を阻害し、肥満細胞を介する即時型アレルギー反応を起こさなくする作用があることがわかった。
IgEの糖鎖に影響する酵素である可能性
さらに、RDE処理後IgEは分子量が変化していたことや、IgEは糖鎖修飾の影響を受けやすいことなどからRDE処理前後の糖鎖修飾の違いをレクチンマイクロアレイで検討したところ、RDE処理で特にLEL、PHA-Lに結合する分岐鎖糖鎖が影響を受けることが判明。最後に、RDEを熱処理するとIgEへの作用が失われたことから、作用している物質は、IgEの糖鎖に特異的に影響する酵素である可能性が示唆された。
今回の結果は、「アレルギー疾患が増加したのは環境が衛生的になったためである」という衛生仮説(Hygiene Hypothesis)にも関連するもので、今後の研究開発により、同研究を基にしたIgE糖鎖特異的に作用する薬剤の開発が期待されると研究グループは述べている。
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・愛知医科大学 プレスリリース