未解明の課題が多い「冠攣縮性狭心症」
東北大学は3月29日、冠攣縮(かんれんしゅく)性狭心症の原因となっている冠攣縮の成因に心臓リンパ管の異常が関与していることを、ブタモデルを用いて、世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、松本泰治院内講師、天水宏和医師らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓協会(AHA)の学会誌「Arteriosclerosis Thrombosis, and Vascular Biology」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
狭心症は、体を動かしているときに胸痛などの発作が起こる労作性狭心症と、安静時に発作が起こる冠攣縮性狭心症に分けられる。労作性狭心症は、冠動脈が動脈硬化によって狭くなることが原因となり引き起こされる。一方、冠攣縮性狭心症は、冠動脈の痙攣(冠攣縮)が原因となり引き起される。労作性狭心症に対する治療法は、心臓カテーテルによる冠動脈ステント治療など、近年著しい進歩を遂げているが、冠攣縮性狭心症には未解明の課題が多く残されている。また、労作性狭心症に対する薬剤溶出性ステント治療後にも冠攣縮による胸痛が残ることも知られている。
心臓リンパ管の異常が冠攣縮の原因となることを証明
下川教授の研究グループはこれまでに、冠攣縮が生じる分子機序に「Rhoキナーゼ」と呼ばれる分子が関与することを世界に先駆けて明らかにしてきた。冠動脈の外側に炎症が生じると、血管平滑筋のRhoキナーゼの発現や活性が上昇して、血管平滑筋の過収縮(攣縮)の原因となる。血管の外側には、血管を栄養するための微小血管や自律神経などのさまざまな組織が存在しており、その一つに心臓リンパ管がある。心臓リンパは冠動脈のすぐ近くを走行しているリンパ管で、他の臓器のリンパ管と比べて、今までほとんど注目されてこなかった。
今回研究グループは、心臓リンパ管を結紮してリンパ管の機能を抑制し、薬剤溶出性ステント植込み後のブタ冠動脈の冠攣縮反応がどのように変化するかを調べた。その結果、リンパ管の機能を抑制すると冠攣縮が悪化すると判明。顕微鏡下で組織の構造を観察したところ、冠動脈外膜のリンパ管の数が減少し、炎症反応が増強され、Rhoキナーゼの発現や活性が上昇していた。これらの結果から、リンパ管の機能不全が冠攣縮に関与していることが世界で初めて明らかとなった。
同研究の結果から、心臓リンパ管は今後、薬剤抵抗性の難治性冠攣縮性狭心症において、新規治療標的となる可能性があると研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース