適正な早期診断が難しい「骨軟部腫瘍(肉腫)」
国立がん研究センターは3月28日、悪性の骨軟部腫瘍を血液で高精度に識別可能な新規診断バイオマーカーを同定したと発表した。この研究は、同センター研究所分子細胞治療分野の落谷孝広プロジェクトリーダー(現・東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療部門教授)、松崎潤太郎特任研究員、中央病院骨軟部腫瘍科の川井章科長、浅野尚文医員(現・慶應義塾大学医学部整形外科学教室助教)、分子発がん研究ユニットの土屋直人ユニット長らの研究チームによるもの。研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に3月21日付で掲載された。
画像はリリースより
マイクロRNAは、血液や唾液、尿などの体液に含まれる22塩基程度の小さなRNA。近年の研究で、がん等の疾患にともなって患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかとなり、患者の負担が少ない診断バイオマーカーとして期待されている。同研究は、希少で多種多様な組織亜型が存在するため、適正な早期診断が難しい「骨軟部腫瘍(肉腫)」に特異的なバイオマーカーを同定することを目指し実施された。
悪性に対し感度90%、特異度95%で検出可能
今回の研究は、2007~2013年に国立がん研究センターを受診した1~97歳の骨軟部腫瘍患者のうち、治療前血清が研究利用可能であった1,002例を対象として行われた。凍結保存血清よりRNAを抽出し、マイクロアレイ(DNA チップ、3D-Gene)を用いてマイクロRNA2,565種類の網羅的な発現データを取得。対照として健常人、他がんの血清より取得したアレイデータを使用した。最終的に解析に使用したのは、骨軟部腫瘍患者897例(悪性:414例、中間悪性:144例、良性:339例)と健常人275人、他がん240例のデータ。初発の良悪性腫瘍症例を探索群、訓練群(1)・(2)、検証群に割り当てて、肉腫に特異的なバイオマーカーの探索と検証を行った。
その結果、血清マイクロRNAの発現様式の特徴は、悪性と良性で異なる集団を形成した。一方、組織亜型間の発現様式の特徴には、大きな差は認められなかった。探索群(悪性77例、良性84例)において良悪性間で有意に発現差のある83種のマイクロRNAのうち、訓練群(1)(悪性117例、良性109例、健常人150例)で、健常人、良性、悪性の順に高発現であり、訓練群(2)(悪性10例、良性10例)においてqRT-PCR法で検証に成功した12種のマイクロRNAをバイオマーカー候補として選定。これら12種のマイクロRNAのうち、7種を用いた診断指標VIでは、検証群(悪性107例、良性124例、健常人125例)で、感度90%、特異度95%と悪性に対し非常に高い診断精度を確認した。
今回行われた、過去最多の症例数での骨軟部腫瘍の血清マイクロRNAの網羅的発現解析結果から、血清マイクロRNAを用いた体液診断は、骨軟部腫瘍における良悪性の早期診断や悪性腫瘍の再発モニタリングに有用である可能性が示唆された。同センターは、今後の臨床応用を目指して、現在、前向き検証試験を実施中だとしている。
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・国立がん研究センター プレスリリース