医師の負担を軽減し正確に診断するAIシステムを目標に
大阪大学は3月26日、脳磁図から神経疾患の自動診断を行うシステムMNetを開発し、脳磁図データから自動で複数の神経疾患の判定ができることを示したと発表した。この研究は、同大医学部の青江丈学部生、大学院医学系研究科脳神経外科学の福間良平特任研究員、高等共創研究院の柳澤琢史教授および東京大学大学院情報理工学系研究科の原田達也教授らの研究グループによるもの。研究成果は英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
脳波や脳磁図は、てんかんなどの神経疾患の診断に不可欠な検査だが、検査で得られる情報は、判読と解析に時間と専門知識が必要なため、一部の専門施設でしか使えないのが現状。また、人の目では見逃してしまう重要な波形の特徴が存在する可能性があるため、人の負担を軽減し、これまでにない波形の特徴を見つける研究が求められていた。
一方、近年注目されるようになったディープラーニングの1つであるDNN(Deep Neural Network)は、さまざまな画像や動画、音声などの特徴をビッグデータから学習することで、これまでにない高い精度でそれらを識別できることが示されている。特に画像認識の分野では、人間のパフォーマンスを上回る性能を示し、商業利用されている。また、医療分野でもCTや眼底写真などの医療画像に対してDNNを適応することで、新しい診断技術が開発されている。
てんかんと健常者は9割近くの精度で判定
今回研究グループは、DNNを用いた新たな人工知能として、神経疾患の自動判別システムMNetを開発した。MNetは、大量の時系列データである脳波や脳磁図のビッグデータから特徴を学習し、波形信号を読み解くもの。今回提案したシステムMNetは、EnvNetという環境音を判別する畳み込みニューラルネットワークを元に作成。研究では、MNetによる判別精度と、従来使われてきた方法による判別精度を比較することで、新たな特徴の学習について検討が行われた。
てんかんの患者140名、脊髄損傷の患者26名、健常者67名の脳磁図ビッグデータの判別を試みた結果、3疾患の判定については7割を超える精度で判定でき、てんかんと健常者の判定については9割近くの精度で判定できることが示された。これは、従来用いられてきた脳波特徴(相対パワー)を用いた一般的な機械学習法であるサポートベクターマシンで判定した場合より有意に高い精度だった。これにより、多数の信号からDNNが特徴を学習し、これまでの波形特徴を用いた場合よりも高い精度で神経疾患を識別できると考察されたという。
脳波や脳磁図の判定には高度な専門知識を持つ医師が時間をかけて大量のデータを判読する必要があった。この判読を、判別機を用いて自動で正確に行うことで、診断精度の向上や均てん化、医師の仕事の効率化が期待されるという。今後、さらに判定できる疾患を増やすことで、神経疾患の診断改善や、様々な疾患の早期発見、治療効果の判定などにも応用が期待されると研究グループは述べている。
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