世界中で8.5億人いるとされる慢性腎臓病患者
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は3月26日、慢性腎臓病の早期診断に、D-アミノ酸のひとつであるD-セリンが有用であることを発見したと発表した。この研究は、同研究所KAGAMIプロジェクトのプロジェクトリーダー、兼、難治性疾患研究開発・支援センター長の木村友則氏と、大阪大学腎臓内科の猪阪善隆教授、部坂篤医師、株式会社資生堂らとの共同研究によるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版で公開されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病患者は世界で8.5億人いると推定されており、日本では人口の1割がこの病気であると言われている。国内で毎年3万人以上の慢性腎臓病患者に透析療法が導入されており、30万人を超える透析患者がいるため、患者のQOL低下と医療費の切迫が大きな問題となっている。
しかし、現在までに慢性腎臓病の早期診断に十分に良い方法は見つかっていない。また、腎臓の機能として、糸球体ろ過量が通常は使用されるが、これを正確に測定するには多くの労力が必要なため、実際の臨床ではほとんど測定されていない。その代替として、血中のクレアチニン値などが腎機能推定に利用されているが、クレアチニンは筋肉量などの影響を受けるために不正確で、また、クレアチニンを用いた糸球体ろ過量の推定自体も正確性が疑問視されている。
D-セリン測定で慢性腎臓病の早期診断に期待
アミノ酸にはL体とD体のキラルアミノ酸(鏡像異性体のアミノ酸)が存在するが、これまで体内にはL体しか存在しないと考えられていた。しかし、同研究グループは、体内にごく少量のD-アミノ酸が存在し、腎臓病の予後と関連することを発見していた。
この発見を受けて同研究グループは今回、D-アミノ酸と腎臓病の関係に着目。慢性腎臓病患者と健康な人の血中と尿中のD-アミノ酸を、非常に正確に、かつ感度よく測定できる2次元HPLCシステムを用いて、D-アミノ酸によって腎臓病をより早期に発見できないか検討した。その結果、これまで効果的な診断方法が十分でなかった慢性腎臓病の早期診断に、体中に微量しか存在しないD-アミノ酸であるD-セリンが有効であることを発見。今回の研究で特定したD-セリンを測定することで、腎臓病を早期に診断に有効であることもわかったという。
また、腎臓病は、糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病、心不全や心筋梗塞などの循環器疾患などの患者に多く合併するが、これらの疾患領域においてもD-セリンを用いることで、腎臓病合併を早期に診断することができ、予後を改善させる可能性が高いという。
研究グループは「本技術を応用することにより慢性腎臓病を早期発見し、早期に治療することで進展を抑制できれば、透析患者数を減少させ、さらに早期治療に集中するという、医療の最適化を達成することが期待できる。さらには、D-セリンを用いて患者に合わせた精密医療(プレシジョンメディスン)を提供すること、新規治療薬の開発、腎臓病の新たなメカニズムに迫ることも可能」と、述べている。
▼関連リンク
・医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ