肥満者に起こる基礎代謝低下の分子メカニズムについて研究
広島大学は3月15日、肥満や脂肪肝の発症に、「Pin1」と名づけられているプロリン異性化酵素の増加が不可欠な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬保健学研究科の中津祐介講師、浅野知一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国学術誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
肥満の成因は、食事で摂取したカロリー量だけではなく、個人個人の基礎代謝の高低も大きく影響している。基礎代謝には体内からの熱産生が大きく関与しており、その熱産生を担うUCP-1を有するのは、脂肪細胞のうち、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞である。
ヒトの場合、成人以降には、褐色あるいはベージュ脂肪細胞が減少するため、基礎代謝が落ちて太りやすくなるとされている。さらに肥満者や糖尿病患者では、一層、熱産生や基礎代謝が低下しているため、減量が困難になる。しかし、肥満者に起こる基礎代謝低下の分子メカニズムはこれまで明らかにされていなかった。その一方、近年では、熱産生能力を上昇させ、基礎代謝量を上げることが、肥満に対する新しい治療手段として注目されていた。
過剰なPin1の抑制が、脂肪肝・NASH・肥満の治療に繋がる可能性
研究グループは、肥満や過栄養の状態で基礎代謝(脂肪細胞からの熱産生)が低下する点に着目。肥満や過栄養の状態では、脂肪細胞内でPin1が増加し、細胞内の転写共役因子PRDM16に結合して分解を誘導することで、熱産生に関与するUCP-1の発現が抑えられることが示された。
この結果から、基礎代謝低下により、肥満や脂肪肝の憎悪が助長されることが判明。さらに、Pin1遺伝子を欠損するマウスでは、脂肪細胞からの発熱量が高く、高脂肪食を与えても肥満や脂肪肝を発症しないことが明らかになったという。
今回の研究の成果から、過剰になっているPin1の機能を抑制することで、肥満や脂肪肝の治療方法に繋げられる可能性が示唆された。研究グループは「今後は、過剰なPin1を化合物によって阻害する方法で、脂肪肝やNASH(悪性度の高い脂肪肝)、肥満の治療に役立てたいと考えている。そこで、Pin1に特異的な阻害化合物の開発を、東京大学創薬機構及び東京薬科大学と共同で開発を進めており、現在は開発した新規化合物3件について海外特許として出願している。これらの新規化合物を用いて、NASHや肥満の治療方法の確立が期待できる」と、述べている。
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