一部の抗てんかん薬では用量依存的に先天異常発現率が増加
東北大学は3月18日、日本における妊娠前、妊娠中および出産後の抗てんかん薬処方状況を評価し、妊婦に対する処方が、必ずしもてんかん診療ガイドラインで推奨されている処方に沿って行われているわけではないことが明らかになったと発表した。この研究は、東北メディカル・メガバンク機構の小原拓准教授と同病院薬剤部の眞野成康教授らのグループが、東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野(中里信和教授)、同産科学婦人科学分野(八重樫伸生教授)、同分子疫学分野(栗山進一教授)、明治薬科大学公衆衛生・疫学研究室(赤沢学教授)、京都大学大学院医学研究科健康情報学分野(池田靖子医師)らと共同で行ったもの。研究成果は、「Pharmacoepidemiology and Drug Safety」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
妊娠中の抗てんかん薬服用による出生児の先天異常発現リスクは単剤服用時よりも多剤併用で高くなり、併用する薬剤の種類によってもリスクの程度は異なる。また、一部の抗てんかん薬については、用量依存的な先天異常発現率の増加が報告されている。そのため、日本神経学会によるてんかん診療ガイドライン2018では、「単剤投与を原則」とし、「投与量は必要最低限にする」「できるだけ先天異常発現リスクの小さい抗てんかん薬を選択する」などが推奨されている。しかし、日本における妊娠前、妊娠中および出産後の抗てんかん薬使用の大規模データに基づくエビデンスは無いことから、今回、株式会社JMDCが保有する大規模レセプトデータベースを用いて処方状況を評価した。
妊娠初期においても高用量のバルプロ酸の処方を確認
妊娠開始日・出産日が推定可能であり、妊娠前180日~出産後180日の期間、同一の健康保険組合に在籍していた母親3万3,941名中225名(1万名あたり66名)に抗てんかん薬の処方が認められた。さらに、抗てんかん薬の処方割合は妊娠初期および中期に減少し、後期から増加。最も多く処方が認められた抗てんかん薬はバルプロ酸(1万名あたり29名)であり、続いてクロナゼパム、ラモトリギン、カルバマゼピンの順だった。また、妊娠初期にバルプロ酸の処方が認められた49名中9名(18.4%)の用量は600mg/日以上だったという。これらの結果から、日本において妊娠前から妊娠を考慮した薬剤・用量選択が一部行われていない可能性が示唆された。
てんかん診療ガイドライン2018では、妊娠前からリスクの少ない薬剤を選択し、発作抑制のための適切な用量調整を行うことが推奨されている。特に、他剤より先天異常発現率が高いと考えられる高用量のバルプロ酸の投与はなるべく避け、投与が必要な場合でも、服用量は600mg/日以下を目指すことが述べられている。しかし、今回明らかになった状況は必ずしもガイドラインと整合していなかった。
研究グループは、「妊娠の可能性がある女性に抗てんかん薬を使用する際、薬剤・用量選択等に関して医療関係者に対するより一層の啓発が必要だ」と、述べている。
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