地方に住む40~59歳の男性1万5,000人を20年間追跡調査
国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループは3月15日、多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告として、労働時間と急性心筋梗塞・脳卒中発症リスクとの関連を調べた結果を発表した。
画像はリリースより
この研究は、平成5年(1993年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所(呼称は2019年現在)管内に住んでいた、40~59歳の男性約1万5,000人を約20年間追跡した調査結果にもとづいたもの。研究成果は、「Circulation Journal」にて公開されている。
この研究では、日本人男性の労働時間が、その後の急性心筋梗塞・脳卒中の発症リスクにどのような影響を与えているかを調査。アンケート調査の結果を用いて、研究開始時の労働時間と10年後の調査時の労働時間から、1日の労働時間を、7時間未満、7時間以上9時間未満(基準)、9時間以上11時間未満、11時間以上の4つのグループに分類し、基準と比較した場合の、他グループのその後の急性心筋梗塞・脳卒中の発症リスクを算出した。
長時間労働で急性心筋梗塞発症リスクが約2倍に
平均約20年間の追跡期間中に確認された急性心筋梗塞・脳卒中の発症人数は、急性心筋梗塞が212人、脳卒中が745人。1日の労働時間が7時間以上9時間未満(基準)のグループと比べ、11時間以上のグループは、急性心筋梗塞の発症リスクが1.63倍高いことが確認された。その一方で、脳卒中の発症リスクとの関連はみられず、病型別(脳梗塞、脳出血)にみても労働時間との関連は認められなかった。
さらに、「勤務者以外」では関連が認められなかったが、「勤務者」では、基準のグループと比べ、11時間以上の長時間労働で、急性心筋梗塞の発症リスクが2.11倍高いことが明らかになった。また、「追跡開始時点の年齢が40~49歳」では関連がみられなかったが、「追跡開始時点の年齢が50~59歳」では、急性心筋梗塞の発症リスクが2.60倍高いことが判明した。
長時間労働が急性心筋梗塞の発症リスクを上昇させる理由として、これまでの先行研究により、長時間労働の結果として睡眠時間が短くなり、疲労回復が不十分であることや、精神的ストレスが増加したりする傾向があると報告されている。今回の研究でも、睡眠の影響を統計学的に考慮したが、このような長時間労働が、急性心筋梗塞の発症リスクを上昇させているのではないかと考えられるという。
また、欧米人を対象とした先行研究では、長時間労働と脳卒中の発症リスク上昇との関連が報告されている。欧米人では脳卒中の病型のうち、大きな血管が詰まる脳梗塞や心臓や頸動脈などから血液のかたまりが飛んで詰まる脳梗塞の割合が多いが、日本人ではこれらの脳卒中の病型が少ないことから、今回の研究では、長時間労働と脳卒中発症リスクとの関連が見えにくかったものと思われると研究グループは考察している。
研究グループは、「本研究は、日本において労働時間とその後の急性心筋梗塞の発症リスクの関連を示した初めての前向き研究であるが、地方の5保健所の管轄地域に居住する労働者を対象とした調査であるため、都市部をはじめ、日本全体の労働者に対して一般化することには慎重であるべきと考える。なお、労働時間と脳卒中発症リスクとの関連では統計学的に有意な差はみられなかったが、長時間労働とさらに詳細な病型別の脳卒中との関連について、今後の研究が必要であると考える」と、述べている。