大学病院・がんセンターから診療所への逆紹介はわずか3.4%
バイエル薬品は、全国の前立腺がん患者206例を対象にインターネットによるアンケート形式の意識調査を実施、その結果を公表した。同調査から、患者の62.1%が前立腺がんの検査や治療で「地域の総合病院」を受診しており、「大学病院」(32.5%)、「住んでいる地域の診療所」(21.4%)は少数にとどまった。現在の治療は主に診療所で行い定期的に大学病院、がんセンターなどを受診している患者は3.9%だった。複数の医療機関を受診したことがあると回答した患者(58例)のうち、前立腺がんの可能性がある段階で診療所から他の医療機関への紹介を受けた患者は56.9%。一方、総合病院、大学病院から診療所へ戻ってきている患者は3.4%だった。
(左)横浜市立大学附属市民総合医療センター
泌尿器・腎移植科部長・教授 上村博司氏
(右)増田泌尿器科院長 増田光伸氏
医療機関を受診した際に、患者が医師に話す内容では、症状については62.2%の患者が「毎回話す」「ほぼ毎回話す」と回答した一方、副作用について「話す」患者は34.0%で、「あまり話さない」「話したことはない」と回答した患者(34.0%)と並んだ。今後の治療・検査方針、前立腺がんの進展の見通しについては、約50%の患者が「話す」と回答した。受診している医療機関に対しては、およそ7割の患者が満足していると回答しており、患者が医療機関に求めることでは、「診療所・総合病院」と「大学病院・がんセンター」どちらにおいても、「しっかり説明し、患者の話を聞く」「前立腺がんの最新治療情報などの説明」「前立腺がん以外の疾患も含めた診察」が上位を占めた。
バイエル薬品は3月7日、同調査結果の公表に合わせて「前立腺がん治療における医療連携の重要性とその課題」と題してプレスセミナーを開催。横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科部長・教授の上村博司氏と、増田泌尿器科院長の増田光伸氏が講演した。大学病院の専門医の立場から同調査を解説した上村氏は、前立腺がん治療における病診連携の重要性を指摘。理想像として、診療所からの紹介で大学病院・総合病院で専門的な治療を行い、治療がひと段落して症状が安定してきたら患者の通院しやすい診療所へと逆紹介し、ホルモン治療などを施行。診療所での治療中にPSA値の上昇など病勢の進行が認められた場合には、再度、大学病院・総合病院へ紹介する病診連携の姿を提示した。上村氏は「病院と診療所がそれぞれの役割を分担することで、効率的・効果的な医療を提供することが可能になる」とし、改めて病診連携の必要性を訴えた。
病診連携で、検査や薬剤の重複減らすメリットも
診療所側の立場で登壇した増田氏は、実際の病診連携の事例として「横浜市前立腺がん地域連携パス」の取り組みを紹介した。横浜市前立腺がん地域連携パスは、市内のかかりつけ医とがん診療連携拠点病院が、患者の治療を協力して行うための治療計画書だ。この治療計画書に基づき、日々の診療と薬の処方はかかりつけ医が、節目の診察・検査をがん診療連携拠点病院が行う。
増田氏は、「かかりつけ医と専門医が患者の診療情報を共有することで、スムーズな診療が可能になることが、地域連携のメリット」と紹介。患者が携帯している診療連携手帳(前立腺)には、診療所の受診日ごとにPSA値をはじめとした検査結果が記載してあり、年に1回、治療計画を策定するがん診療連携拠点病院を受診する際に提出され、情報が共有される仕組みだ。患者も治療計画を確認できるので、「患者自身が治療の内容を把握でき、安心して治療に専念できる」(増田氏)。この連携により、検査・薬剤の重複を避けられるなどのメリットもあるという。
診療所とがん診療連携拠点病院のスムーズな連携には、「患者の診療情報を正しく引き継ぐことが必要」と増田氏。病診連携を進めるうえで、診療情報共有の仕組みづくりが欠かせないことが、横浜市の事例から改めて確認された。
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・バイエル薬品株式会社 プレスリリース