技術者の手技に依存した従来法では量産化に限界
株式会社日立製作所と理化学研究所の共同研究チームは3月14日、再生医療用細胞の培養自動化を目指し、完全閉鎖系小型自動培養装置を用いて、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮のシート状組織(RPE細胞シート)の自動培養に世界で初めて成功したと発表した。研究成果は、科学誌「PLOS ONE」に3月13日付で掲載された。
画像はリリースより
理研生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの髙橋政代プロジェクトリーダーらのグループは、滲出型加齢黄班変性患者の皮膚組織から作製したiPS細胞を用いてRPE細胞シートを作製し、患者本人の網膜下へ移植(自家移植)する臨床研究を2014年に世界で初めて実施し、2017年には移植2年後の経過が良好であることを論文報告した。現在は、自家移植の課題であったiPS細胞や移植に用いる細胞の調製から移植までにかかる時間の短縮とコスト低減に向けて、他人のiPS細胞由来のRPE細胞を用いた臨床研究(他家移植)に取り組んでいる。
従来、再生医療用の細胞や組織の製造は、細胞培養技術者の手技として実施されてきた。したがって、品質が技術者のスキルに依存し、また、限られた施設でしか培養できないため、普及に向けた量産化に限界があることが課題となっていた。日立ではこれらの課題を解決するため、2000年代初めより研究を開始し、2019年に大量自動培養装置を製品化するなど、高い無菌性を担保できる完全閉鎖系を技術的特長とした細胞製造の自動化技術を構築。また2017年に、理研も拠点を置く神戸医療産業都市内に日立神戸ラボを開設し、オープンイノベーションにより、iPS細胞の医療応用におけるトップリーダーらとともにさらなる技術の向上とアプリケーションの拡大を目指してきた。
医療用細胞の安定的な供給による量産化に向けて
今回、日立と理研は、角膜上皮や口腔粘膜上皮などの細胞シートの自動培養で実績のある日立の完全閉鎖系小型自動培養装置を用いて、理研で臨床研究での医療応用の実績があり、既に確立したRPE細胞シートの手技培養手順に従って完全閉鎖系での装置培養に適用するべく、送液や送気条件などについて検討を重ね、ヒトiPS細胞由来のRPE細胞シート培養の自動化に成功した。さらに、RPE細胞シートの培養に適した専用の閉鎖系培養容器を作製することで、高い再現性を実現した。また、自動培養で作製したRPE細胞シートにおける細胞間接着マーカー(ZO-1)や基底膜形成マーカー(Laminin)の発現を確認し、熟練技術者による手技培養と同レベルの品質であることを実証したという。
今回の成果は、再生医療用の細胞が完全閉鎖系で自動培養可能であることを示し、この技術により細胞培養従事者の労力を大幅に低減できるだけでなく、医療用細胞の安定的な供給による量産化を可能にし、今後の再生医療をより身近な医療へと導く一歩となると、研究グループは述べている。
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