新世代の低侵襲性治療として注目される「低出力パルス波超音波(LIPUS)」
東北大学は3月14日、アルツハイマー型認知症に対する超音波治療の医師主導治験において安全性を確認し、本格治験へ進むことを発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授、進藤智彦助教、江口久美子医師、同大学加齢医学研究所老年医学分野の荒井啓行教授らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
アルツハイマー型認知症は代表的な認知症のひとつで、いくつかの症状改善薬が開発されているが、根本的な解決策となる治療法は確立されていない。超高齢社会の進展に伴う認知症患者の急激な増加と相まって、毎年、世界中で1000万人の新規患者が発症していると言われており、治療薬の開発は喫緊の課題となっている。このような中、近年、低出力パルス波超音波(LIPUS)が、細胞・組織障害が非常に少ない低侵襲治療として、注目され始めている。
薬物では通過しにくい血液脳関門の影響を受けることなくアプローチ可能
下川教授らの研究グループは、以前より虚血性心疾患に対するLIPUS治療の有効性と安全性を動物実験レベルで報告してきた。この低出力パルス波超音波を全脳に照射すると、認知機能低下が抑制される可能性があることを2種類の認知症モデルマウスにおいて確認。アルツハイマー型認知症の動物モデルでは、アミロイドβの蓄積を著明に減少させた。この治療法は、物理刺激を用いた革新的なアプローチであり、薬物では通過しにくい血液脳関門の影響を全く受けることがないなどの有利な特徴を有しているという。
この研究結果に基づき、研究グループは2018年6月から、軽度アルツハイマー型認知症の患者を対象に、プラセボ治療群を対照群とする単施設盲検無作為化比較試験(探索的医師主導治験)を東北大学病院にて開始。今回、治験の第一段階である安全性評価を主軸に置いたRoll-in群の観察期間が終了し、3月11日に開催された効果安全評価委員会で安全性が確認されたため、有効性の評価を主軸に置いたRCT群の登録を2019年4月から開始することになった。このRCT群では、治療は3か月毎に行い、全観察期間は18か月。主な有効性評価項目は、認知機能試験(MMSE、ADAS-J cog、CDR/CDR-SB)と行動試験(NPI-Q、Zarit)で、安全性の評価として頭部MRI検査を実施する。
この治験の結果をもとに、将来的には検証的治験の実施、薬事承認申請を目指すという。同治療法の有効性が認められれば、世界初のアルツハイマー型認知症に対する「疾患修飾療法」として、革新的な治療装置となることが期待される。
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