がんゲノム医療推進に向けた3つ目の検査
慶應義塾大学病院は3月11日、さらなるがんゲノム医療の推進を図るため、ヒトのほぼすべての遺伝子に該当する約2万遺伝子を解析する「PleSSision-Exome検査」を導入したと発表した。この検査は、腫瘍センターの西原特任教授並びに三菱スペース・ソフトウエア社が中心となって共同開発したもの。シーケンスは、登録衛生検査所の北海道システム・サイエンス社で実施する。
画像はリリースより
慶應義塾大学病院腫瘍センターでは、一人ひとりの患者に最も適したがん治療薬の情報を提供するため、受託解析にて160のがん遺伝子を調べる遺伝子パネル検査「PleSSision検査」(保険診療適用外、自費診療)を実施してきた。この検査は、既に国内20以上の医療機関が導入し、500症例以上の実績を誇るもの。同検査では、がんの原因となる遺伝子異常(ドライバー遺伝子異常)の検出、薬剤選択に関わる情報の取得により、患者のがんの診断や治療に役立てることを目的としている。同院では2018年10月に臨床研究「PleSSision-Rapid検査」を開始し、診断・治療のために病変切除が行われたがん患者に対して160遺伝子のスクリーニング検査を実施し、30%以上の症例において、何かしらの薬剤の有効性に関わる情報を得ている。
ヒトのほぼすべての遺伝子を解析しCNV、TMBを高い精度で検出
今回新たに導入する「PleSSision-Exome検査」は、ヒトのほぼすべての遺伝子に該当する約2万遺伝子(19,296遺伝子)を解析するもの。検体はこれまで同様、病理診断残余腫瘍組織と血液の正常細胞(白血球)を使用し、DNA配列を比較することで、、がん細胞に特異的な遺伝子の異常を見つける。この検査は、従来の160遺伝子の検査と比べ、臨床的に意義のある遺伝子変異(SNV:single nucleotide variant)の検出は1症例あたり2個程度の増加に留まると想定されているが、免疫チェックポイント阻害剤の有効性に関わるとされる、遺伝子コピー数の数(CNV:copy number variation)および遺伝子変異数(TMB:tumor mutation burden)については、より高い精度で検出することができる。こうした受託型臨床検査として、がん組織を対象にした全エクソン解析を実施するのは、日本国内では初めてとなる。
同検査により、がん細胞に見られる遺伝子の異常が明らかとなることで、治療効果が期待できる治療薬の情報や、臨床試験(治験)等の情報が得られる可能性がある。ただし、保険診療で認められている標準治療が行われている場合は、その標準治療が優先され、遺伝子検査の結果に基づく治療は全ての標準治療が終了した後の選択肢となる。また、この検査では、血液由来の正常遺伝子を同時に検査することにより、遺伝性腫瘍の発症に関連した遺伝子の変化(生殖細胞系列バリアント)が見つかる可能性がある。
自由診療で約100万円
同検査の対象者は、医療機関で病理組織学的検査を受け、悪性腫瘍と診断されているか、または現在、悪性腫瘍の治療が行われている患者。受診には全て、現在がん診療中の医師・医療機関からの紹介および予約が必要とされる。なお、慶應義塾大学病院に入院中は、同検査を受けることができない。
がん遺伝子検査(PleSSision検査/PleSSision-Exome検査)は、保険診療の対象外の自費診療となり、診察料、検査料等、合計約59万円(PleSSision検査)あるいは約100万円(PleSSision-Exome検査)の費用全額を患者が負担する。検査の説明を受けた結果、検査を行わない場合には、がん遺伝子検査相談料の税込3万2,400円がかかる。
慶應義塾大学病院では、先行実施しているスクリーニング検査「PleSSision-Rapid検査」(臨床研究として実施中)、がん遺伝子パネル検査「PleSSision検査」に加えて、最先端の高精度検査「PleSSision-Exome検査」を今回導入することで、幅広くがんゲノム医療を推進する体制を構築した。今後、一人でも多くの患者に、がんゲノム医療を提供できるよう、日常診療内での実施を目指していくとしている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース