強く求められている「うつ病回復」のインジケーター
富山大学は3月11日、働く人の抑うつ症状の発生と抑うつ症状の回復について1年間の追跡調査を行った結果、1年後の抑うつ症状の発生には仕事への不満が、また1年後の抑うつ症状からの回復には仕事の裁量度や要求度といった、職務ストレスが強く影響していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部疫学・健康政策学講座の立瀬剛志助教らのグループによるもの。研究成果は「Journal Of Occupational and Environmental Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
うつ病は、仕事によるストレスが強く関連していると言われている。また仕事が不満足な状態は、労働意欲の低下による労働生産性だけでなく、メンタルヘルスにも悪影響を与えることが知られている。しかし、これまでの研究では仕事によるストレスと仕事満足を同時に扱い、うつ病との関連を評価したものはない。また、昨今のストレスマネジメントの観点から、より簡便で客観的なうつ予防またはうつ回復のインジケーターが必要とされている。
職場ストレス以外に、未婚や慢性疾患の影響も大きく
研究グループは、富山大学のグループで定期的に調査を行っている公務員研究の参加者2,088名のデータを用いて、抑うつ症状の発症と回復それぞれにおいて、仕事のストレスと仕事満足がどのように影響しているかを調査した。なお、抑うつ症状については、Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)を用い、日本人固有の基準値(19点以上)を抑うつ症状ありと評価した。また、抑うつ症状への影響をみる2つの心理社会的指標(職務ストレスと仕事満足)については、研究者らが国際共同研究を実施している英国ホワイトホールⅡ研究と同じ国際的な指標を用いた。分析は、初年度(2009年)の段階で抑うつ症状の有無を測定し、翌年抑うつ症状が新たに発生したグループと、抑うつ症状が回復したグループとで検討し、うつ病の発症因子と回復阻害因子を同定した。
統計解析の結果、1年後の抑うつ症状発生においては「仕事不満足」「未婚」「短時間睡眠(6時間未満)」が発症要因として影響していた。また、1年後の抑うつからの回復には「仕事の裁量度」「仕事の要求度」という職場ストレス要因が強く影響したほか、「慢性疾患」があることも関連していた。
これらの結果から、仕事満足因子と職務ストレス因子を同時に解析した結果、抑うつ発症には「仕事満足」が、抑うつ回復には「職務ストレス」が大きく影響していることが明らかになった。これは、抑うつ予防、抑うつ回復対策において、着目すべき因子を同定できたという意味で、職場におけるヘルスマネジメント戦略に大きく寄与するものと考えられる。その他、労働時間やシフトワークなど、労働量に関した指標はそれ単独では(労働時間の長さや交代勤務が負うストレスの高さとは独立して)抑うつと関連していないことも判明した。
研究グループは、「今回の研究では1年後の抑うつの発生と回復において関連因子が違うことが明らかになった。仕事の不満足は1年後の抑うつの発症を予測し、職務ストレス因子における仕事の裁量の低さと要求の高さは1年後の抑うつの回復を阻害していた。本研究で、抑うつ「予防」における仕事満足の向上、「回復」支援のための職務ストレスの改善が1年間という短期間での成果に繋がることが示された」と、述べている。
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