歯の神経細胞を死滅させる強力な炎症物質は何なのか
九州大学は3月11日、歯の神経が短期間に死滅するしくみを世界で初めて解明したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院の西村英紀教授らと、東北大学歯学研究科の鈴木茂樹講師、広島大学医歯薬保健学研究科の柴秀樹教授らと共同で行われたもの。研究成果は、英国の学術誌「Scientific Reports」で3月7日にオンライン公開された。
画像はリリースより
歯の神経が虫歯や酸、熱等でダメージを受けると激しい痛みを伴った急性炎症が引き起こされ、通常歯の神経は数日内に完全に死滅する。歯の神経が死滅すると歯の内部から歯に栄養を供給する血流が途絶えるため、歯がもろくなる。また、死滅するときには非常に激しい痛みを伴うため、神経が死滅する仕組みを解明することは歯科における重要な課題の1つとなっている。これまでの研究で、歯の神経細胞が、強力な炎症を引き起こす物質を分泌することが発見されていたが、この物質の本態は未解明だった。
PKRの活性抑制で、歯の神経を死滅させない治療法の開発へ
一方で、数年前からいろいろな細胞が細胞外に微粒子を分泌し、その内部に細胞間のコミュニケーションを担う重要な物質が内包されていることが明らかになってきていた。そこで今回は、細胞外微粒子に注目。歯の神経に存在する細胞が弱いストレスを受けると、ストレス顆粒と呼ばれる顆粒を細胞内で形成し、この顆粒が細胞外微粒子に内包されて分泌され、免疫細胞(単球/マクロファージ)に働きかけて強烈な炎症反応を起こすことを突き止めた。ストレス顆粒はさまざまなタンパク質や遺伝子で構成されているが、顆粒の内部に活性化Protein kinase R(PKR)と呼ばれる細胞内信号を伝えるタンパク質が存在し、このPKRが炎症の指令を免疫細胞に伝える本態であることも明らかになった。
今回の研究の成果は、PKRの活性を抑えることで将来的に歯の神経の死滅を防ぐ治療法の開発につながると期待されるもの。またこの発見が、神経変性疾患や難治性の自己免疫疾患などの他の病気の病因の解明につながる可能性もあると、研究グループは述べている。
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