適切な検査や処方が行われている割合について、近年の推移を分析
国立国際医療研究センターは3月8日、大規模レセプト(診療報酬請求明細書)データにより、糖尿病患者において適切な検査や処方が行われている割合について近年の推移を分析し、その結果を発表した。この研究は、国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センターの杉山雄大室長と、東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田中宏和大学院生らの共同研究チームによるもの。同研究は国際糖尿病連合が発行する「Diabetes Research and Clinical Practice」に掲載されている。
画像はリリースより
糖尿病性腎症、糖尿病網膜症はそれぞれ、透析導入原因の第1位、失明原因の第3位と言われており、糖尿病診療においては合併症発症・進展予防、合併症が発症した場合の早期診断・早期治療が重要だ。しかし日本の糖尿病患者において、適切な検査や処方が行われている割合の近年の推移は明らかにされていなかった。
治療の質は向上も、網膜症・腎症の検査実施率は依然低く
研究グループは、健康保険組合のレセプトデータベースを用いて、薬物治療中の糖尿病患者において糖尿病治療ガイド(日本糖尿病学会 編著)などで推奨されている検査や薬の処方を受けている割合を糖尿病診療の質を示す指標として算出し、その経年変化(2007~2015年度)を分析した。
その結果、3か月に1度以上の頻度で医療機関を受診し糖尿病治療薬の処方を受けていた糖尿病患者において、翌年度に1回以上のHbA1c検査、血中脂質検査を実施した割合は高く、それぞれ約95%、約85%だった。また、「高血圧治療薬を処方されている糖尿病患者がACE阻害薬またはARBの処方を受けている割合」と「脂質異常症を並存している糖尿病患者がスタチンの処方を受けている割合」は上昇傾向にあった。
一方で、糖尿病治療ガイドなどで推奨される年1回以上の糖尿病網膜症の検査を受けている糖尿病患者の割合は約40%にとどまり、実施率も近年上昇していなかった。また、糖尿病性腎症の検査である尿アルブミン検査の実施率は上昇傾向にあるものの、2015年度においてはわずか24%であり、糖尿病網膜症・腎症の検査実施率に課題があることが明らかになった。これらの点については、糖尿病治療ガイドなどで推奨されている適正な検査のさらなる普及が望まれる。
今回の研究ではインスリンの処方の有無や医療施設の規模で層別化した解析を行っており、これらの結果が糖尿病診療の質の向上のための基礎資料として今後活用されることが期待される。研究グループは、「糖尿病診療の地域差や医療施設の特性による差などの分析を進め、わが国の糖尿病診療の実態把握と診療の質の向上のために研究結果を提言していきたい」と、述べている。
▼関連リンク
・国立国際医療研究センター プレスリリース