高齢化率の上昇で重要視される、医療費・介護給付費の増大要因
筑波大学は3月6日、後期高齢者の医療レセプトと介護レセプトのデータを突き合わせた分析研究を行い、高齢者における複数の慢性疾患の併存(多疾患併存)は、年間医療費のみならず年間介護給付費の増大とも関連があることを示した研究結果を発表した。この研究は、同大ヘルスサービス開発研究センターの森隆浩准教授、田宮菜奈子センター長/教授らが、東京大学、東京都健康長寿医療センターと共同で行ったもの。研究成果は、「BMC Geriatrics」にて公開されている。
画像はリリースより
高齢化率が上昇するなか、持続可能な医療・介護保険制度を実現するためには、医療費・介護給付費の増大をもたらす要因を同定し対応することが重要と考えられる。日本以外のOECD諸国からは、高齢者の多疾患併存は医療費の増大と関連すると報告されているが、高齢者の多疾患併存と介護給付費との関連、また医療費・介護給付費の合計との関連を調べた先行研究は、世界でも存在しないとされていた。今回、多疾患併存の指標としてCharlson Comorbidity Index(CCI)値(2011年に再評価された改訂版)を用いて、高齢者における多疾患併存と年間医療費・介護給付費の関係について研究を行った。
CCI値が1高いと平均年間医療費は15.7万円、平均年間介護給付費は12万円高額に
研究グループは今回、分析データとして千葉県柏市における後期高齢者の医療レセプトと介護レセプト(2012年4月から2013年9月まで)を用い、両者を個人レベルで突き合わせ、匿名化された状態で利用した。また、研究対象は、少なくとも1回は医療保険サービスを使用し、かつ12か月以上の追跡が可能な75才以上の後期高齢者とした。2011年に再評価・改訂されたCCIには、慢性合併症を伴う糖尿病、心不全、腎疾患、肝疾患、慢性肺疾患、リウマチ疾患、認知症、片麻痺あるいは対麻痺、悪性腫瘍、AIDS/HIVが含まれ、各項目に重み付けがされてCCI値が算出される。今回の研究では、CCI値を0、1、2、3、4、5以上に分類した。12か月間の医療費・介護給付費の合計は、平均で108.6万円だった。
多変量一般化線形モデルによる分析の結果、CCI値が1高いと平均年間医療費は15.7万円、平均年間介護給付費は12万円、また両者の合計は25.7万円高額だった。一方、同じ要介護度内であれば、CCI値と介護給付費との関連は認められなかったという。高齢者の多疾患併存が介護給付費の増大と関連している背景としては、多疾患併存を有する高齢者は元々介護のニーズが高い傾向にあり、要介護度の上昇に伴い利用限度額も上昇したため、結果として介護給付費が増大した可能性が考えられる。
実際に研究では、CCI値が高いほど、要支援・要介護状態でない割合が低く、要介護度5の割合が高いという結果が得られた。一方で、供給が需要を規定している可能性(要介護度の上昇に伴い利用限度額上限まで介護給付費が使用される可能性)も考えられる。
以上の結果から、高齢者の多疾患併存は年間医療費のみならず、年間介護給付費の増大とも関連していることが判明した。介護レセプトには疾患に関する情報は含まれておらず、今回の研究は医療レセプトと介護レセプトのデータを突き合わせることにより、高齢者の多疾患併存と年間医療費・介護給付費に関する、世界で初の知見であると言える。今後も医療・介護データベースの全国レベルでの連結が予定されており、今回の研究が、全国レベルのデータを用いた医療経済的研究が進むきっかけとなることが期待される。
▼関連リンク
・筑波大学 プレスリリース