オキシトシンはどうやって血液脳関門を通過するのか
金沢大学は3月5日、社会性行動に重要な愛情ホルモンであるオキシトシンの脳内移行および中枢神経での作用発揮の分子メカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系血管分子生物学の山本靖彦教授、子どものこころの発達研究センターの東田陽博特任教授、医薬保健研究域医学系神経解剖学の堀修教授、尾﨑紀之教授、医薬保健研究域医学系脳神経外科学の中田光俊教授らと、公立小松大学、東北大学、米ハーバード大学、ロシアのクラスノヤルスク医科大学などの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌Nature Research出版誌「Communications Biology」のオンライン版に2月25日付で掲載された。
画像はリリースより
オキシトシンは、人が他人のこころを推し量り、交流していく際に必要なペプチドホルモンとされ、それを司る社会脳の発達に欠かせないものと考えられている。脳内で合成されたオキシトシンは脳内に分泌されたり、血液中へ放出されたりすることはわかっていたが、血液中のオキシトシンが中枢神経で作用を発揮する際に必須となる末梢循環から脳内移行のための血液脳関門の通過の分子メカニズムは明らかにされていなかった。
パターン認識受容体「RAGE」に結合して通過
今回研究グループは、哺乳類にしか存在せず、炎症や老化などの進展に関わるパターン認識受容体のひとつである「RAGE」に着目し、RAGEを欠くRAGEノックアウトマウスを用いた実験を行った。その結果、RAGEノックアウトマウスでは、オキシトシンを皮下投与しても脳脊髄液中のオキシトシン濃度の上昇はみられず、さらにRAGEノックアウトマウスでは、オキシトシンの皮下投与によって、脳視床下部の神経活動も上昇しなかった。これにより、脳血管内皮細胞におけるRAGEの存在とオキシトシンの脳内移行には相関があり、オキシトシンはRAGEに結合して血液脳関門を通過することが明らかとなった。
また、RAGEノックアウトマウスの母親の子育ては下手で、仔の生存率は低い状態だったが、脳血管内皮細胞へのRAGE発現を遺伝子操作で回復することで仔の養育行動が戻り生存率が高まることが確認された。これにより、RAGEは養育行動を引き起こすために重要な役割を担っていることが明らかになった。
この研究成果は、親子の絆や愛情行動の分子機序の理解につながり、育児放棄や虐待など、今日の深刻化する社会問題の解決の一助になる可能性を秘めている、と研究グループは述べている。
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