ドライアイやストレス関連疾患とBDNFの関係性を研究
慶應義塾大学は3月5日、環境因子とドライアイの関係について研究を行い、どのような環境にいるかということが脳を介して涙液量の分泌制御に関わっていることを示唆する成果を得たと発表した。この研究は、同大医学部眼科学教室の坪田一男教授、川島素子特任講師、佐野こころ特任助教らの研究グループと、精神・神経科学教室の三村將教授、田中謙二准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、学際的総合ジャーナル「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
これまでの研究から、ドライアイと精神疾患(抑うつ障害・不安障害・睡眠障害など)が関係している可能性が報告されている。因果関係については不明だが、ストレス関連疾患と脳由来神経栄養因子(BDNF)の関係性を示唆する研究があること、また、ドライアイとBDNFの関係性を示唆する研究があることから、ドライアイ・BDNF・ストレス関連疾患の関係性を解明することが、今後の新規治療・予防法開発につながると期待されている。
涙液の減少に脳のBDNFが関与する可能性
今回研究グループは、マウスの行動を制限し、顔に風を当てるストレス負荷を4時間与えたところ、涙液量が減少することを発見した。次に、遊具を備えた広いケージで複数のマウスを一緒に飼育した「豊かな環境」では、マウスはより多くの感覚、運動、認知的かつ社会的な刺激を受けることができ、このような環境で飼育されたマウスに前述のストレスを負荷したところ、狭いケージで単独飼育した通常環境のマウスとは異なり、涙液量がほとんど減少しないことが確認された。また、通常環境下でストレスを負荷され涙液量が減少したマウスを「豊かな環境」に移し飼育したところ、通常環境に置かれたマウスと比較して涙液量の回復が早いことが判明。これらの結果から、「豊かな環境」に置くことで、涙液量減少を予防でき、涙液量減少の回復も有意に早くなることが確認された。
さらに、ストレス負荷をした際に、通常環境下では脳のBDNF発現量が減少にするのに対し、「豊かな環境」飼育下ではBDNF発現量の減少は見られなかった。また、BDNFの発現量を抑えたモデルマウスでは涙液量が少ないことが確認されたという。
今回結果は、ストレス関連疾患の中には脳のBDNFが関与していると考えられているものがあり、さらに研究を進めることで、今後ドライアイと他疾患との関係性の解明が期待される。また、環境因子が涙液量に影響を及ぼすことが示されたことで、今後新たなドライアイ予防・改善方法として「環境づくり」によるアプローチが期待されると研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース