低侵襲の関節鏡で半月板損傷部位に細胞浮遊液を投与
富士フイルム株式会社と東京医科歯科大学(TMDU)は3月5日、半月板損傷を対象とした、自家間葉系幹細胞の移植技術に関する特許ライセンス契約を締結したと発表した。
画像はリリースより
この技術は、半月板損傷患者に対して、小さな傷口で施術可能な関節鏡により滑膜由来の自家間葉系幹細胞を用いた細胞浮遊液を投与するもので、TMDU再生医療研究センター長の関矢一郎教授が世界で初めて開発した技術。富士フイルムは今回の契約に基づき、同技術による、滑膜幹細胞を用いた再生医療製品を全世界で開発・製造・販売する独占的実施権をTMDUより取得する。またTMDUは、富士フイルムより契約一時金、開発マイルストン、売上ロイヤリティを受け取る。
半月板は、膝の中にある三日月状の軟骨で、膝への負担を減らすクッションの役割を果たしている。半月板損傷は、スポーツや日常生活における強い衝撃、加齢などにより、半月板が断裂することで生じる。現在、半月板損傷の治療では、半月板の温存が可能な半月板縫合術が推奨されている。半月板縫合術は、関節鏡を用いるため侵襲性が低いものの、同術が適応できる断裂の部位や状態は限定的だ。同術が適応できない場合、半月板切除術や保存療法が採用されるが、半月板切除術では半月板の切除により膝の軟骨が擦り減って変形性膝関節症を発症する可能性が高まるといった問題があり、特に半月板切除術が多く行われている40代以上の患者は、変形性膝関節症の高リスク群であると言われている。また保存療法では、鎮痛薬などを使用する対症療法であり治療効果が見込めないという課題があることから、新たな治療方法へのニーズが高まってきている。
再生医療により半月板温存治療が可能、実用化を推進
今回、富士フイルムとTMDUが締結した特許ライセンス契約は、半月板の断裂部位に滑膜幹細胞を移植する技術に関するもの。同技術は、関節鏡を用いた低侵襲の手術と細胞移植を組み合わせた治療技術。半月板縫合術が適応されない患者に対し、半月板を温存したままでの症状改善が期待できるという。
同技術では、まず関節鏡を用いて断裂部位を縫合し、半月板の形を整え、同時に、膝関節内の滑膜を採取。その後、滑膜から分離した滑膜幹細胞を約2週間培養して作製した細胞浮遊液を、半月板断裂部位に投与する。投与した細胞浮遊液中の滑膜幹細胞が半月板に生着し、修復を促進させることで、膝の曲げ伸ばしや立ち上がる時に感じる痛みやひっかかり、不安定さなど、臨床症状の改善を図る。また、半月板を温存することで、変形性膝関節症発症の抑制も期待されている。
今後、富士フイルムは、同技術に加え、幅広い製品で培い進化させてきたエンジニアリング技術や、日本で初めて再生医療製品を上市した、子会社の株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)の持つ細胞培養や品質管理に関する技術・ノウハウなどを活かして、半月板損傷を対象に滑膜幹細胞を用いた再生医療製品の実用化を進めるとしている。
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・富士フイルム株式会社 ニュースリリース