体内物質とライフログのデータを統合的に解析
株式会社NTTドコモと東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は3月5日、妊娠期間中に発症する病気の予防・早期発見方法の確立をめざして共同研究を実施し、妊婦の病気の予兆を示すライフログや体内物質の変動パターンを明らかにしたと発表した。今回の研究成果に関連する、マタニティログ調査の研究設計と研究参加妊婦の背景に関する詳細は、医学分野の学術論文誌「BMJ Open」に掲載されている。
画像はリリースより
共同研究の目的は、体内物質(DNA、RNA、代謝物など)と日々のライフログ(血圧、脈拍、体重、体温、活動量、睡眠、食事など)を組合せた統合的なデータ解析を行い、高頻度かつ客観的な精度のライフログデータと体内の状態変化を捉えることで、妊娠期間中に発症する病気(妊娠高血圧症候群・早産・妊娠糖尿病など)の予兆を捉え、個別化予防・早期発見方法の確立を目指すこと。研究は4年4か月にわたって実施され、ドコモがこれまで培ったビッグデータ解析技術および機械学習などのAI(人工知能)技術と、ToMMoのゲノム情報等解析技術および生命情報科学技術を組み合わせたデータ解析が行われた。
世界最大規模のビッグデータを収集
共同研究は2014年11月より開始。2015年2月からは、ToMMoの実施する三世代コホート調査に参加された妊婦を対象に、「マタニティログ調査」として参加者を東北大学病院で募集。2016年11月までの募集期間に302名の参加者が集まった。
参加者は、妊娠初期から産後1か月まで定期的に血液・尿・歯科検体などの試料を提供。また、ドコモが同共同研究向けに開発したスマートフォン用アプリ等を使用して血圧や体調などのライフログを登録した。参加者から得られた毎日のライフログは最終的に約600万件、血液・尿・歯科検体などの試料は約8,000本にも及び、妊婦を対象とした研究としては世界最大規模となった。
個別化予防・医療に向け多くの知見が得られた
まず、収集した試料に対してオミクス/ゲノム情報を詳細にデータ化し、妊娠期間にわたって妊婦の生活習慣や体調変化などを捉えたデータ基盤を構築した。これにより、遺伝的要因と環境要因が影響して症状や体調変化に至る過程の把握が可能となった。これらのデータを統合的かつ経時的に解析することで、妊娠期間中に発症する病気に関係する数々の新しい知見が得られた。
例えば、妊娠経過に伴い、子宮収縮回数、体重、基礎体温、活動量などのさまざまなライフログがダイナミックに変化することを、俯瞰的に捉えることに成功した。また、病気を発症しなかった妊婦と発症した妊婦と比較すると、血圧や睡眠の質などのライフログの変動パターンが大きく異なることもわかった。この成果は、ライフログの変動から病気の発症予兆や発症リスクをAIでとらえることで、発症リスクが高い妊婦への生活習慣の改善提案や、産科医などによる早期診療に活用することができ、病気の発症を未然に防ぐ個別化予防・医療の実現につながると期待される。
分娩前の代謝物の変動を解析した結果からは、分娩日が近づくにつれて、血液中や尿中に含まれる特定の代謝物濃度に特徴的な変動があることがわかった。この成果は、AIによる分娩日予測に活用できる。分娩日予測は、妊婦や家族が出産に向けた計画を立てやすくなるのみならず、医療機関においても、分娩受け入れ態勢を事前に整えることができ、より安心・安全な出産への貢献が期待される。さらに、出生体重に関連する妊婦のゲノム変異を探索した結果、妊婦の特定の遺伝子に変異があると、産まれてくる子どもの出生体重が低くなることが明らかとなった。この成果は、低出生体重児が産まれる遺伝的なリスクを把握し、産科医などによる早期診療に活用することで、低体重での出産を未然に防ぐ個別化予防・医療につながると期待される。