高い透過性を持つテラヘルツ波で化学反応の分布を可視化
岡山大学は3月4日、テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いて、1mL中に含まれるわずか10個の乳がん細胞を高感度に検出することに成功したと発表した。この研究は、同大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科の紀和利彦准教授らと、カナダのケベック先端科学技術大学院大学(INRS)の尾崎恒之教授、カールトン大学のM. C. DeRosa 教授、W.G. Willmore教授との共同研究グループによるもの。研究成果は、欧州の科学雑誌「Sensors and Actuators B」のオンライン版に2月15日付で掲載された。
画像はリリースより
がんマーカーを用いた早期診断は、低侵襲かつ迅速簡便な診断方法として期待されている。がんマーカーを検出するためには、特定のがんマーカーを認識し、結合する物質の開発が重要となる。「テラヘルツ波ケミカル顕微鏡」は、紀和准教授らのグループが独自に開発したテラヘルツ顕微鏡の1つで、化学反応の分布を可視化することができる。テラヘルツ波とは、電波と光の中間の周波数を持ち、1秒間に1兆回振動する(周波数が1兆ヘルツ程度の)電磁波で、高い透過性を持つことから、物質を破壊せずに性質を調べるのに適している。岡山大学とケベック先端科学技術大学院大学は、2016年に大学間協定を締結し、同顕微鏡の高精度化と産業応用探索を行ってきた。
わずか10個の乳がん細胞を高感度に検出
一方、ケベック先端科学技術大学院大学とカールトン大学は、特定の物質と特異的に結合して細胞やタンパク質の機能を阻害する核酸分子「アプタマー」を新規に開発。今回、紀和准教授らのグループは、乳がんを選択的に認識するアプタマーをテラヘルツ波ケミカル顕微鏡に適用した。その結果、1mL中に含まれるわずか10個の乳がん細胞を高感度に検出することに成功。 テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いた高感度がん細胞検出が可能であることを、初めて実証できた研究成果と言えるという。
岡山大学が開発したテラヘルツ波ケミカル顕微鏡により、特定の物質とがん細胞の結合を迅速簡便に評価することができるようになるため、早期診断に必要な新規がんマーカーの網羅的な発見が実現すると研究グループは見ている。また、新規医薬品の開発期間を大幅に短縮する可能性もあるとしている。なお、同顕微鏡は、今回成功したがん細胞の検出に加えて、抗体反応の検出、イオンの検出など生体に関連する物質の検出にも成功している。
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・岡山大学 プレスリリース