慢性脳低灌流はなぜADの症状を進行させるのか
東京大学は2月26日、高血圧や糖尿病による動脈硬化が慢性的な脳血流低下(慢性脳低灌流)を引き起こし、高齢者のアルツハイマー病(AD)を加速するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部附属病院神経内科の坂内太郎登録研究員、間野達雄助教、岩田淳講師らと、東京医科歯科大学難治疾患研究所神経病理学分野との共同研究として行われた。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に、日本時間で同日発表された。
画像はリリースより
これまでのAD患者を対象とした観察研究から、高血圧や糖尿病などが原因の動脈硬化による慢性脳低灌流がADの症状を進行させることが知られていた。特に、慢性脳低灌流は、ADの病状に大きくかかわる物質であるアミロイドβ(Aβ)によって構成された老人斑の形成も促進することがわかっていたが、その詳細な機構は不明だったという。
脳内虚血モデルマウスを利用してAβの変化を観察
同研究グループは、Aβが脳内に蓄積しやすくなったモデルマウスの体内でヒトの慢性脳低灌流と同様の状態を作ることを考え、マウスの総頚動脈に太さ0.18mmのコイルを巻き付ける「両側総頚動脈狭窄術」を施した。この処置は、脳血流を正常に比べて 30~40%程度低下させることができる。この処置を受けたマウスとそうでないマウスとを比べると、処置後15週、30週と時間を経るにつれて、処置を受けたマウスの方がより大きな老人斑を形成した。一方で、老人斑の数そのものや蓄積した Aβの量全体には差がなかった。このことから、慢性脳低還流はAβの産生には影響を与えないものの、脳内のAβの状態に影響を与えていると考えられるという。
次に研究グループは、ゲルろ過という方法を用いて、Aβの脳内での状態を確認した。その結果、慢性脳低還流の状態にあるマウスの脳内では、Aβがくっつき合った「オリゴマー」という状態にあり、中でも特に、より多くAβ分子が集まった「高分子オリゴマー」が増加していた。これにより、慢性脳低還流の状態にあるマウスの脳内では、 Aβ同士のくっつき方に大きな変化があることが想定されたため、「微小透析」という方法を用いて、オリゴマー形成の過程を詳細に検討した。その結果、慢性脳低還流の状態にあるマウスの脳内では、低分子量のAβが高分子量のAβにくっついていく速度が加速していることがわかった。
間質液の「よどみ」が原因だった
最後に研究グループは、慢性脳低灌流でAβ同士がくっつきやすくなる理由を解明するために、マウスの脳の表層を生きたまま観察できる顕微鏡を使用して、道内の細胞と間質液の挙動を観察した。その結果、慢性脳低還流の状態にあるマウスの脳では、間質液の動きが著しく遅くなっていた。これにより、「慢性脳低還流では間質液がよどみ、Aβが脳内の局所にとどまりやすくなった結果、お互いにくっつく確率が高まった」ことが示された。
今回の研究により、慢性脳低還流がアルツハイマー病を悪化させる機構が明らかになった。加えて、AD患者では、その進行を遅らせるため、血圧、糖尿病などといった慢性脳低灌流の原因となるような生活習慣病の管理がより重要となることも示された、と研究グループは述べている。
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