J-ADNI研究の血液データを北米ADNI研究のデータと比較
東京大学は2月25日、軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への移行に、血液中のカルシウム値が低いことが関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科脳神経医学専攻の佐藤謙一郎大学院生および岩田淳講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載されている。
画像はリリースより
今回の研究は、J-ADNI研究の血液データを中心に詳細な追加解析を、北米ADNI研究のデータと比較しながら行ったもの。J-ADNI研究はADNI研究に習い、2008年より日本で開始された大規模な研究だ。J-ADNI研究では、観察開始時点で軽度認知障害と診断された234名のうち、約50%が3年以内にアルツハイマー型認知症へ進行・移行した。今回、研究グループはアルツハイマー型認知症への移行に関与する因子について、これまであまり検討されていない要素を検討した。
その結果、観察開始時点での血液中のカルシウム値が正常範囲であっても低め(血清カルシウム値が補正後9.2mg/dL未満)の場合、より認知症に移行しやすいことが見出された。なお、血清カルシウム値が正常範囲を超えて低い(=異常低値)人の割合は3%未満と少なかったことから、血清カルシウム値が「異常値」と判定されなくとも、低めであれば認知症に移行しやすいことが見出されたとしている。
一方、北米ADNI研究データを同様に解析した結果では、軽度認知障害から3年以内に認知症に移行した人は、追跡開始時点の血清カルシウム値は高めという、逆の結果が見出されたという。
関連する理由、現時点では不明
これまでの主に欧米からの研究報告では、血液中のカルシウム値と軽度認知障害の進行の関連は不透明だった。今回の研究は、日本人の包括的な前向き観察データから軽度認知障害と血液中のカルシウム値との関連を示した、アジア初の報告となる。
しかし、血清カルシウム低値とアルツハイマー型認知症への移行が関連する理由は、現時点では不明だ。また、ビタミンD欠乏も認知機能悪化に寄与することが知られているが、今回の研究ではビタミンDは測定されておらず、潜在的なビタミンD欠乏による低カルシウムを反映した結果である可能性もあるという。さらに、軽度認知障害に伴う屋外活動量や食生活の変化などの要素が影響を与えた可能性も考えられる。そのため、今回の研究の範囲から血清カルシウム低値が直接的に認知機能悪化に影響しているとは必ずしも結論できないこと、また、カルシウム剤の服用が認知症への進行予防に繋がるわけではないことに留意する必要がある。
研究グループは、「今後の認知症の観察・介入研究においては、これまで十分には検討されてはこなかった、血清カルシウム値およびビタミンD値、またそれらにかかわる活動量や食生活などの情報も検討していく必要がある」と、述べている。
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