血液中のmiRNA発現プロファイルに着目
国立長寿医療研究センターは2月25日、血液マイクロRNA(miRNA)の網羅的な発現情報をもとに、認知症発症のリスク予測モデルを構築したと発表した。この研究は、同センターのメディカルゲノムセンターを中心とした研究グループによるもの。研究成果は、研究成果は英電子科学誌「Communications Biology」に、2月25日付で公開された。
画像はリリースより
アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)は、3大認知症とされている。認知症患者数が年々増加している一方で、その根治が難しい今、早期・正確に診断し、病態に適した悪化予防などのリスクマネジメントを行うことが重要とされている。現行の脳脊髄液中のタンパク質(アミロイドβ、総タウ、リン酸化タウ)を測定する検査はADの診断に有効だが、他の認知症を知ることはできない。また、被験者への侵襲性が高いこともあり、早期診断のための実施はあまり行われていない。一方、アミロイドβやタウ蓄積を検出するPET検査、脳の特定部位の萎縮を検出するMRI検査は高額であり、実施施設も限定される。こうした現状から被験者の肉体的・経済的負担の大きい精密検査前に、簡便な方法で認知症をスクリーニングする方法が求められている。
そこで研究グループは今回、3大認知症を一度の検査で判別できる簡易的な血液検査法の開発を目的として、血液中のmiRNA発現プロファイルに着目した認知症判別モデルおよび認知症発症リスク予測モデルの構築を試みた。
3大認知症を高感度かつ特異的に判別可能に
研究グループは、三大認知症を含む認知症群と認知機能正常高齢者群1,569例の血清を、高感度DNAチップ「3D-Gene(R)」を用いて網羅的miRNA発現解析した。得られたデータは、「教師あり主成分分析ロジスティック回帰法(supervised PCA logistic regression method)」に応用し、予測モデルの構築を行った。この予測モデルは独立した2つのデータセットで検証され、ADを感度93%・特異度66%、VaDを感度73%・特異度87%、DLBを感度76%・特異度86%で判別できたという。
認知症では、正常老化と認知症の境界領域である軽度認知機能障害(MCI)の段階から認知症に進行する患者を早期に発見することが、疾患マネジメント上重要とされている。そこで今回、縦断的に観察されていたMCI患者(初診時)32例について、初診時採取の血清を用いて認知症への進行予測を試みた。その結果、認知症に進行した10症例を感度100%で、進行しないと予測した4症例を陰性的中率100%で判別することができた。今回構築された予測モデルで使用されたmiRNAのターゲット遺伝子を調べたところ、脳機能との関連が示唆されるものが多く含まれていたという。
血液検査による認知症発症リスク予測の可能性を示したこの手法を用いれば、被験者の負担が少なく、施設間差のない定量的な検査が可能となる。これにより、検査手法の異なる3大認知症の検査を一度の採血で判定でき2次検査コストを抑制できること、疾患に適した治療法を早期の段階で選択できること、MCIの段階で将来の認知症進行予測が可能となり早期介入ができること、などのメリットが考えられる。研究グループは今後、認知症体外診断薬化に向け、多施設による検証と性能検査に取り組んでいく計画としている。
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