筋肉がもつ内分泌器官としての機能に着目
大阪大学は2月21日、肺がんに関する抗PD-1抗体治療の効果が、治療開始時点の筋肉量に影響を受ける可能性を見出したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の白山敬之特任助教(オンコロジーセンター)と、同大大学院医学系研究科熊ノ郷淳教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に公開されている。
画像はリリースより
肺がんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)は日常臨床で用いられており、治療を受けている患者の中には、長期にわたって効果が持続するケースが見受けられる。現在、治療効果の予測因子に関する研究が世界中で進められているが、高い治療効果を認める患者を事前に予測することは困難とされている。
近年、筋肉は運動器官としてだけでなく、内分泌器官としての機能も注目されており、筋肉から分泌されるマイオカインは、抗腫瘍効果をもつことが報告されている。しかし、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と患者の筋肉量の関係については、これまで明らかにされていなかった。
治療開始時点の筋肉量低下が効果不良因子である可能性
研究グループは、後ろ向き観察研究として、肺がんにおける抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)の治療効果と患者の筋肉量の関係について、調査を行った。なお、筋肉量の評価には、腹部CTでの第3腰椎レベルにおける大腰筋の断面積を採用した。
採用した患者の腹部の筋肉量を、アジア人の筋肉量データの基準値に照らし合わせ、治療開始時点の筋肉量低下の有無を判定したところ、治療開始時点で筋肉量低下を認めた群では、筋肉量低下を認めなかった患者群と比較して、抗PD-1治療薬中の病勢進行のリスクが2.83倍となることが示された。また、全身状態に問題がないとされるパフォーマンスステータスが良好な群の中でも、筋肉量の低下の有無で治療成績に同様の差がみられた。さらに、少数例の検討ではあるが、1年以上の長期効果を認めた群は、男性・女性ともに筋肉量が高い集団であると考えられるという。
今回の研究成果により、治療開始時点の筋肉量と抗PD-1抗体の治療効果との関連性が示され、治療開始時点の筋肉量低下は効果不良因子である可能性が示唆された。研究グループは「現在、抗PD-1抗体の治療効果を予測するためのバイオマーカー研究がすすめられているが、今回の研究で得られた筋肉量というマーカーは、既存のマーカーと異なり、さまざまな取り組みによって改善し得る指標である。今後、抗PD-1抗体の治療効果を上げるために、筋肉量を維持するための取り組みが重要となるかもしれない」と、述べている。
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