サルコペニアになりやすい高齢の糖尿病患者
神戸大学は2月22日、糖尿病で筋肉量が減少するメカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の小川渉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「JCI Insight」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
高齢者では、筋肉の減少により活動能力が低下すると、さまざまな病気にかかりやすくなり、寿命の短縮にも繋がることが知られている。加齢による筋肉の減少と活動能力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、高齢者が増加し続ける日本で、大きな問題となっている健康障害のひとつだ。
糖尿病患者は高齢になると筋肉が減少しやすく、サルコペニアになりやすいことが知られているが、そのメカニズムは明らかにされていなかった。一方、インスリンには血糖値を整えるだけでなく、細胞の増殖や成長を促す作用がある。そのため、インスリンの作用が十分でなくなると筋肉細胞の増殖や成長が妨げられ、そのことが筋肉の減少に繋がるという仮説も提唱されている。
血糖値の上昇がWWP1を減少させ、KLF15の分解を抑制
研究グループは、実験的に糖尿病にしたマウスにおいて、筋肉量の減少に伴い、転写因子の「KLF15」というタンパクの量が筋肉で増加することを発見。さらに、筋肉だけでKLF15を無くしたマウスでは、糖尿病になっても筋肉量が減らないことがわかった。これは糖尿病でKLF15の量が増えることが、筋肉減少の原因であることを示している。また、糖尿病でKLF15が増えるメカニズムを検討した結果、血糖値の上昇がKLF15の分解を抑制し、KLF15が筋肉に蓄積することが判明。さらに、KLF15の分解制御にWWP1というタンパクが重要な働きをしていることも突き止めた。
WWP1はユビキチンリガーゼと呼ばれるタンパクの仲間のひとつ。ユビキチンという小さなタンパクが結合すると、ユビキチンが結合したタンパクの分解が速まる。通常の状態では、WWP1がKLF15にユビキチンを結合させることにより分解を促し、KLF15の量を低く保っているが、血糖値が上昇すると、WWP1の量が少なくなり、その結果、KLF15のユビキチンの結合が少なくなり、KLF15の分解が抑制されることを発見した。
今回の結果から、血糖値の上昇がWWP1とKLF15という2つのタンパクの量に影響をおよぼすことにより、筋肉を減少させるというメカニズムが初めて明らかとなった。WWP1やKLF15が糖尿病の筋肉減少に関わることはもとより、血糖値の上昇が筋肉の減少を促すという現象も、今まで全く想定されていなかった新しい発見だという。
筋肉は糖尿病だけでなく、加齢や運動不足など、さまざまな原因で減る。今回の研究で、その働きが明らかになったKLF15とWWPは、他の原因による筋肉減少にも関わっている可能性がある。研究グループは「現在、筋肉減少に対する治療薬はない。WWP1の働きを強めるような薬、あるいはKLF15の働きを弱めるような薬を開発できれば、筋肉減少の画期的な治療薬となる可能性がある」と、述べている。
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