国内7例の患者を対象に原因遺伝子を探索
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2月18日、新生児期に発症し、進行性のてんかんや知的障害、運動障害などを生じる「大脳白質変性症」の原因遺伝子を世界で初めて発見し、リジンtRNA合成酵素をコードするKARS遺伝子の異常を見出したと発表した。この研究は、同センター神経研究所 疾病研究第2部の伊藤雅之室長らの研究グループによるもの。研究成果は、国際神経科学誌「Brain」オンライン版に2月5日付で掲載された。
画像はリリースより
研究グループは2011年に、新生児期に発症した難治性てんかん、先天聾、重度発達遅滞、脳内石灰化を呈する大脳白質変性症の患者について、それまでに知られていなかった病気として報告していた。その後、多施設の協力を得て国内から6例の似た症状の患者を見いだし、以前報告した1例と合わせた7例の患者の症状の類似性を検討し、原因遺伝子を探した。
リジンtRNA合成酵素をコードするKARS遺伝子に異常
まず、症状の類似性を検討した結果、全ての患者で共通して、新生児から重度な精神運動発達遅滞、難治性てんかん、先天聾、眼振が見られた。加えてMRIなどの画像では大脳白質の進行性脱髄と石灰化を認めたことから、この病気は、これまで報告のない新しい大脳白質変性症であることが判明した。次に、原因遺伝子を探索した結果、リジンtRNA合成酵素をコードするKARS遺伝子に3か所の異常があることを発見(p.Gly217Asp、p.Glu252_Glu293del、p.Leu596Phe)。この遺伝子異常により同酵素の活性が有意に低下することを確認した。さらに研究グループは、アフリカツメガエルを使った実験により、症状の再現に成功。これら一連の結果から、KARS遺伝子異常による新しい病気であることが裏付けられた。
今回この新しい疾患の存在と原因遺伝子が明らかになったことにより、症状とMRIによる脳画像診断、および遺伝子診断により新生児の大脳白質変性症の臨床診断ができる準備が整った。今後、より多くの臨床データを集め、この疾患の疫学研究や診断支援を進めていくことで、早期診断、早期治療の実現につながる。さらに、病気の発症メカニズムの解明に寄与し、この新しい疾患だけでなく広く小児期に発症する大脳白質変性症のゲノム医療の進展など、新たな治療法や予防法の開発が期待されると研究グループは述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース