胎児期の子どもの発育の指標となる出生時体格で検討
国立環境研究所は2月15日、約2万人の妊婦の血中水銀およびセレンと出生時体格との関連を検討し、その結果を発表した。この研究は、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」おいて、2016年4月に確定したデータを解析したもの。研究成果は「Environment International」に掲載されている。
エコチル調査は、化学物質などの環境要因が子どもの健康に与える影響を明らかにし、「子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくる」ことを目的として、2010年度に開始された疫学調査。胎児期から出生後の子どもが13歳になるまでの健康状態や生活習慣を2032年度まで追跡して調査することとしている。
出生体重、出生身長、出生頭囲、出生胸囲など出生時体格は、胎児期の子どもの発育の指標となる。実際に出生時体格が小さすぎたり大きすぎたりする場合、生後に肥満やメタボリックシンドロームを発症しやすくなる可能性が指摘されている。
出生時体格が小さくなる要因はさまざまだが、海外の研究グループによる疫学研究では、胎児期のメチル水銀ばく露が出生時体格に影響する可能性が指摘されている。また、日本においてはメチル水銀の主要ばく露源は魚介類であると言われている。一方、セレンは人にとって必須微量元素であり、主な摂取源は食事だ。過去の動物実験では、セレンが酸化ストレスを防ぐ可能性が示唆されている。また、セレンは有害金属と相互作用し、互いの毒性を軽減させることも報告されているが、妊婦の水銀とセレンが出生時体格におよぼす影響の報告はほとんどなく、妊婦の水銀およびセレンばく露と出生時体格との関連は、明らかにされていない。
健康状態が危惧されるような差は認めず
研究グループは、妊婦の血中水銀とセレン濃度が子どもの出生時体格に影響しているのではないかと考え、疫学的手法を使って検討した。今回の研究では、2016年4月に確定された妊婦約10万人のデータ「出産時全固定データ」と、妊娠中期(22週以降)から後期までに採取した妊婦の血液のうち、ランダムに選んだ約2万人分の妊婦の「金属類第一次固定データ」(平成29年4月確定)を使用。このうち、血中金属類元素データおよび出生時体格のデータがそろった1万7,998人の妊婦のうち、死産、流産、および双子以上の場合、さらに関連因子と考えたものに何らかの欠測データがある人を除いた1万5,444人を解析対象とした。血中水銀およびセレン濃度と出生時体格との関連は、重回帰分析あるいはロジスティック回帰分析を使って検討。さらに、血中水銀濃度と出生時体格との関連は、血中セレン濃度別に分けた解析を実施した。
その結果、最も水銀濃度が低い妊婦集団(3,848人)と比較して、最も水銀濃度が高い妊婦集団(3,868人)から生まれた子どもは出生体重が13g(95%信頼区間:−28, 3)小さかったものの、統計学的に有意な関連はなかった。また、最もセレン濃度が高い妊婦集団(3,928人)と比較して、最もセレン濃度が低い妊婦集団(3,818人)から生まれた子どもは出生体重が9g(95%信頼区間:−6, 25)大きかったものの、統計学的に有意な関連はなかった。頭囲に関しては、最も水銀濃度が低い妊婦集団と比較して、最も水銀濃度が高い妊婦集団から生まれた子どもは出生頭囲が0.076cm(95%信頼区間:0.014, 0.137)小さいという結果となった。
さらに、血中水銀濃度と出生時体格との関連について、血中セレン濃度を考慮したとき、妊婦のセレン濃度が最も低い妊婦集団の中で、血中水銀濃度が最も低い妊婦集団と比較して最も高い妊婦集団で出生体重は41gの減少、出生頭囲は0.156cmの減少が認められた。平均出生体重は3025.9g(標準偏差405.3g)、出生頭囲は31.8cm(標準偏差1.8cm)で、検出された出生体重や出生頭囲の減少量はその1%前後の変化量であり、現時点では出生児の健康状態が危惧されるような差ではないと考えられるという。
今回の研究成果について、研究グループは、「エコチル調査では、これらの金属以外の環境要因、遺伝要因、および社会経済要因も調べている。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待される」と述べている。
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