認知度および検査に対する期待や懸念を調査
東京大学は2月12日、がん患者やがん患者の家族、一般市民を対象としてがん遺伝子パネル検査に関する意識調査を行い、同検査の認知度や、同検査に対する期待や懸念について明らかにしたと発表した。この研究は、同大医科学研究所公共政策研究分野の永井亜貴子特任助教と武藤香織教授、同大大学院学際情報学府の李怡然大学院生らのグループによるもの。研究成果は「Journal of Human Genetics」のオンライン版に1月10日付で掲載された。
画像はリリースより
日本では、がんゲノム医療の中核を担い、がん遺伝子パネル検査を実施するがんゲノム医療中核拠点病院が2018年に指定されるなど、がんゲノム医療の推進に向けた体制整備が進められている。海外におけるがん患者を対象とした研究では、がん細胞のプロファイリングへの関心が高く、二次的所見の開示を希望する人が多い一方で、心理的負担や健康保険への影響などの懸念も示されたと報告されている。一方、日本では、がん遺伝子パネル検査の認知度や同検査に対する態度に関する調査はほとんど行われておらず、がん患者やがん患者の家族が、同検査に対してどのような期待や懸念を持っているかは明らかではなかった。
そこで今回研究グループは、がん遺伝子パネル検査に関する意識調査を、インターネットを介して行った。調査の対象者は、株式会社インテージの保有する調査パネルから抽出した、がん患者・がん患者の家族2,661人(2018年3月)、および一般市民3万8,156人(2018年5~6月)。調査回答者は、がん患者・がん患者の家族1,761人、一般市民1万739人。がん患者・がん患者の家族として回答した中で70歳以上の人、一般市民として回答した中でがんの既往歴または家族歴がある人を分析の対象から除外し、がん患者757人、がん患者家族763人、一般市民3,697人について分析した。
日本における認知度はたった2、3割
調査の結果、がん遺伝子パネル検査の認知度はいずれのグループでも約2~3割と低かった。がん遺伝子検査に関するベネフィットと懸念については、がん患者の77%、がん患者の家族の82%が「より個人に適したがん治療が普及する」と期待している一方で、がん患者の74%、がん患者の家族の73%が「所得による医療格差が拡大する」と懸念を持っていることが明らかになった。また、3グループのうちがん患者の家族は、「がん遺伝子パネル検査が患者や患者家族の治療・予防に役立つ」といったベネフィットをより高く認識していることがわかった。がん遺伝子パネル検査の検査結果のデータベースへの登録については、がん患者の72%、がん患者の家族の77%が「検査精度の向上に役立つ」と考えている一方で、約5割が「登録された個人の結果の適切な利用」について懸念していることも明らかになった。
がん遺伝子パネル検査の検査結果について、がん患者の69%、がん患者の家族の82%が「遺伝性腫瘍の結果を家族と共有したい」と考えていることがわかった。がん遺伝子パネル検査の主な検査対象となる進行がんの患者は、心理的な負担から治療選択や生殖細胞系列の結果の共有について意見を述べることが難しい可能性があることから、がん遺伝子パネル検査はアドバンスド・ケア・プランニングと一緒に提示されるべきと研究グループは考察している。2019年度よりがん遺伝子パネル検査の保険適用が開始すると、同検査への関心や態度に影響を与える可能性がある。研究グループは、今後もがん遺伝子パネル検査に対する態度について調査を行い、がんゲノム医療の実装に伴う課題について検討していく必要があると述べている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース