新たな測定法で抗がん剤の有効性との相関をより正確に
東北大学は2月8日、DNA修復経路の1つで抗がん剤感受性と大きく関連する相同組換え修復(HR)の活性の新たな測定法を開発したと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所腫瘍生物学分野の千葉奈津子教授、吉野優樹助教、東北医科薬科大学の渡部剛講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に2月7日付で掲載された。
画像はリリースより
DNAに生じた傷を治すDNA修復機構のうち、HRは最も重篤な傷の1つである「二本鎖切断」の修復に働く。HRに関わる分子の異常は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群などの遺伝性腫瘍を引き起こす。一方、HR活性の低下したがん細胞はDNA損傷に弱く、DNA損傷を引き起こす抗がん剤や放射線治療が効きやすくなる。つまり、細胞のHR活性を測定することで、発がんのリスクや治療の有効性を測定することが可能と言える。
しかし、従来用いられてきたHR活性の測定法には、いくつかの問題があった。特定の細胞でしか測定ができず、また、測定のための人工遺伝子配列をゲノムに組み込んで測定を行うため、細胞が元々持っている遺伝子の修復活性を評価しているわけではなかった。さらに、測定値は半定量的で、抗がん剤の有効性との相関が十分ではなかった。
CRISPR/Cas9システムでHR活性を測定する「ASHIRA」
そこで同研究グループは、任意の細胞で任意のゲノム内の部位のHR活性を定量的に測定できる方法「ASHRA(Assay for Site-Specific HR Activity)」を開発。この方法はゲノム内の任意の部位にDNA二本鎖切断を作成するため、ゲノム編集技術に用いられるCRISPR/Cas9システムを応用した。細胞にCas9と切断に必要なガイドRNAを発現するベクターを入れると、ゲノム内の標的部位を特異的に切断できる。切断部位近くの配列と検出のためのマーカー配列を含むドナーベクターを同時に導入すると、HRによってDNA二本鎖切断が修復されるときにマーカー配列がゲノムに取り込まれる。取り込まれたマーカー配列の量を測定することで、細胞のHR活性が評価できるというわけだ。
研究グループは、実際にASHRAを用いることで、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子の一つであるBRCA1の変異体の機能障害が診断できることを確認した。また、従来法ではHR活性と抗がん剤感受性が一致しない変異体があったが、今回の測定結果では一致したため、同測定法は従来法よりも正確に薬剤感受性を予測できると考えられた。
ASHRAは、これまで測定が不可能であった転写が行われていないゲノム領域での測定も可能だ。これにより、従来HRに必須とされていたBRCA1が転写活性の高い領域でのHRにのみ関与し、転写が行われていない領域では別の機構が存在する可能性が示された。今後、患者の組織検体の直接測定法などに改良することで、抗がん剤の効果 を治療前に予測して治療する、テーラーメイド医療の開発が期待できると研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース