同院は以前、VEGF阻害剤を含む薬物療法を実施していた外来がん患者で、ネフローゼ症候群が発現した症例を経験。定期的な尿蛋白検査が十分に行われていない症例も少なくなかったため、外来化学療法室で業務を行う薬剤師が電子カルテを通じて、医師に定期的な検査の実施を呼びかけることから開始した。
その結果、検査の実施率は高まったが、問題はまだ残っていた。医師は診察日に電子カルテを開き、そこで初めて呼びかけを目に留めて検査オーダを入力するため、検査の実施はその次の診察日になってしまう。また、呼びかけに反応しない医師がいることも問題だったという。
この問題を解決するため、薬剤師の発案でVEGF阻害剤であるラムシルマブ、ベバシズマブ、アフリベルセプトを対象にした3剤共通のPBPMを策定。院内で了承を得て運用を開始した。
プロトコールで定めた基準は▽尿蛋白定性検査を最低月1回以上実施する▽定性検査の結果が1+以下ならVEGF阻害剤を投与する▽定性検査の結果が2+以上の場合は疑義照会の上、当日尿蛋白定量検査を実施する(医師判断で検査を実施せずに投与することは可能)▽定量検査の結果が2g/日未満の場合はVEGF阻害剤を投与する▽定量検査の結果が2g/日以上の場合は休薬する――など。
一連の業務フローの中で薬剤師は、尿検査の実施が約2カ月間ない場合、尿蛋白定性検査のオーダを代行入力する。定性検査の結果が2+以上で定量検査が未実施の場合、医師に確認した上で定量検査オーダを代行入力する。
PBPM運用の結果、導入前は60.3%だった、1カ月以内の尿蛋白定性検査の実施率は、導入後は100%に高まった。尿蛋白定量検査の実施件数も増えた。検査の必要性を周知する機会になり、医師による検査指示が増えたほか、入力が漏れた場合は薬剤師が代行することで実施率が大幅に向上。薬剤師は定性検査全体の23.8%を代行入力していた。
また、導入前は20%だった、グレード2以上の蛋白尿の発現割合は導入後8%に低下。尿蛋白定性検査の実施率向上に伴い、2+の症例を早期に発見して対応し、悪化を防いでいるためだという。
目黒氏は「副作用の早期発見と重篤化防止による安全な化学療法の実施に寄与できた。3剤共通プロトコールの策定によって、どの薬剤師でもほぼ同じレベルで検査を入力できるようになった」と強調。
「このPBPMを始めようと考えたのは現場の薬剤師。現場でないと分からない悩みや、これができれば患者のためになると思うことがある。上司から言われて始めるのではなく、現場から声を上げてボトムアップでPBPMを築き上げることも大事ではないか」と呼びかけた。
ほかのPBPMとして現在、▽VEGF阻害剤の副作用である高血圧発現時の降圧薬を薬剤師が提案▽セツキシマブ、パニツムマブによる低マグネシウム血症を早期に発見する検査を薬剤師が代行入力――を実施中。今後は、化学療法に関わる副作用対策として制吐剤や保湿剤、ステロイド外用剤の処方提案などについても「PBPMを順次拡大していきたい」と話した。