既存の鎮痛薬が効きにくい難治性疼痛
広島大学は2月5日、核内受容体であるREV-ERBsを活性化させることで、難治性疼痛の原因である脊髄アストロサイトの活性化が抑制され、痛みが緩和することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬保健学研究科の森岡徳光教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Brain Behavior and Immunity」のオンライン版に1月23日付で公開された。
画像はリリースより
現在、坐骨神経痛、糖尿病性疼痛、帯状疱疹後痛などの神経障害性疼痛や、変形性膝関節症、関節リウマチなどの炎症性疼痛はいずれも難治性であり、患者の生活の質(QOL)を低下させる要因となっている。これらの慢性的な痛みは、現在汎用されている鎮痛薬であるロキソニンなどの非ステロイド性鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬が効きにくく、治療が困難であることから、新たな治療薬・治療法の確立が望まれている。
REV-ERBs刺激薬で痛みシグナルを緩和
以前より研究グループは、脊髄の構成細胞の一つである「アストロサイト」が痛みシグナルの促進に重要であることを見出していたことから、その活性を抑制する薬剤が新たな鎮痛薬として有効であると考え、研究を続けてきた。また同研究グループ は、脊髄アストロサイトにREV-ERBsが存在することを確認していた。そこで今回の研究では、さまざまなタイプの難治性疼痛モデルマウスと培養アストロサイトを用いて、REV-ERBs刺激薬による鎮痛効果とアストロサイトの活性に対する影響を検討した。
その結果、実験的に活性化させた培養アストロサイトからの数種類の痛み誘発物質の産生が、REV-ERBs刺激薬により抑制されることが判明。また坐骨神経痛、炎症性疼痛、糖尿病性疼痛、抗がん薬誘発性疼痛を誘発したそれぞれのモデルマウスに対して、 REV-ERBs刺激薬を投与すると痛みが緩和された。さらに、この鎮痛効果は、脊髄アストロサイトを抑制することで、それらからの痛み誘発物質の産生を抑制することに起因することを発見した。
従来、単一の痛み誘発物質を標的とする薬剤が鎮痛薬として注目されてきたが、痛みシグナルの促進にはさまざまな物質が関与するため、その効果は限定的だった。一方で、REV-ERBs刺激薬は、「痛みシグナル促進の元凶」であるアストロサイトを抑制し、さらにそれらから産生される複数の痛み誘発物質を減少させる。REV-ERBsをターゲットにした薬剤は、難治性疼痛に苦しむ多くの患者を救う新たな鎮痛薬となることが期待されると研究グループは述べている。
▼関連リンク
・広島大学 ニュースリリース