20万人規模の大規模ゲノムワイド関連解析を実施
東京大学は2月5日、20万人規模の日本人集団の遺伝情報を用いた大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行って、2型糖尿病の危険性を高める遺伝子領域を新たに同定し、さらにGLP-1受容体のミスセンス変異が2型糖尿病の危険性と関わることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の門脇孝特任教授、山内敏正教授、理化学研究所生命医科学研究センターの堀越桃子チームリーダー、鎌谷洋一郎チームリーダー、大阪大学大学院医学系研究科の岡田随象教授、鈴木顕助教らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に2月4日付で掲載された。
画像はリリースより
2型糖尿病のかかりやすさは、遺伝と環境の両方によって影響されるが、日本人集団における2型糖尿病の遺伝の理解は不十分であった。これまでのGWASにより、多くの2型糖尿病の危険性を高める遺伝子領域が同定されているが、これらは主に欧米人集団を対象とした研究で同定されたものだ。一方で、ウエスト周囲長または体格指数(BMI)が同程度の場合、日本人集団では欧米人集団よりも2型糖尿病発症の危険性が高く、日本人集団と欧米人集団では2型糖尿病の疫学は異なることが知られている。この違いは、2つの民族集団における2型糖尿病の病因が異なる可能性があることを示している。
GLP-1受容体のミスセンス変異を新たに発見
そこで研究グループは、日本人集団の2型糖尿病の遺伝素因を解明するために、日本人集団における4種類の2型糖尿病のゲノムワイド関連解析の結果を統合し、メタ解析を行った(2型糖尿病3万6,614例および対照群15万5,150例)。解析対象となった検体はバイオバンク・ジャパン、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構、多目的コホート研究、日本多施設共同コーホート研究より提供された。解析の結果、ゲノムワイドの有意水準をもって2型糖尿病と関連していたのは88遺伝子領域だった。そのうち28領域が、2型糖尿病の危険性を高める新たな遺伝子領域として同定された。うち、20領域が日本人集団におけるGWASにおいてのみ有意な関連が認められる領域だった。
さらに詳細に解析をした結果、2型糖尿病との関連がこれまでに報告されていなかった、15のミスセンス変異が新たに発見された。中でも、2型糖尿病治療薬の標的分子であるGLP-1受容体のミスセンス変異(R131Q)は、多くの日本人が持っているが、欧米人ではほとんど見られない稀な変異だった。このミスセンス変異は、薬剤投与後のインスリン分泌を2倍以上に増加させるため、個人ごとの薬剤反応性マーカーとして応用できる可能性がある。
インスリン分泌調節経路は日本人特有
次に、2型糖尿病のゲノムワイド関連解析の結果と統合する横断的オミックス解析を実施した。各細胞・組織が2型糖尿病発症に関してどれだけ重要であるかを調べた結果、膵島のH3K27acというエピジェネティック修飾に、2型糖尿病の遺伝率が集積していた。また、2型糖尿病と他の疾患や形質との間に共通する遺伝的背景を評価したところ、既に知られている心血管疾患やBMIなどとの相関を認めたほか、2型糖尿病と後縦靭帯骨化症および白血球数との間に有意な正の相関があることを見出した。
最後に、日本人集団と欧米人集団の2型糖尿病GWASを対象に民族横断的な分子生物学的パスウェイ解析を実施。1,077のパスウェイのうち、両民族集団において2型糖尿病と有意に関連していたパスウェイ数は、それぞれ17と13だった。特に、若年成人発症型糖尿病(MODY)に関わるパスウェイが両民族集団において2型糖尿病と最も強く関連していることを世界で初めて見出した。また、β細胞の発生、発生生物学、前立腺がん、およびG1期に関わるパスウェイも、両方の民族集団に共通して2型糖尿病と関連していた。一方、インスリン分泌調節に関わるパスウェイは、日本人集団においてのみ、2型糖尿病と有意な関連を示した。
今回の研究結果は、2型糖尿病の遺伝要因の理解を深めるとともに、将来的には糖尿病の発症予測・発症前予防に応用できる可能性があると研究グループは述べている。
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