中央病院MASTER KEY project傘下で5つめの医師主導治験
国立がん研究センター(国がん)中央病院は2月4日、内膜肉腫を対象に、新規のMDM2阻害剤(murine double minute 2:MDM2)であるDS-3032b(ミラデメタン)の医師主導治験を開始したと発表した。内膜肉腫は、希少がんの中でも発症頻度が極めて低く対象患者数も少ないため、治験の実施は世界でも初めてとなる。
この試験は、希少がんの研究開発・ゲノム医療を産学共同で推進する中央病院のMASTER KEY project (Marker Assisted Selective ThErapy in Rare cancers: Knowledge database Establishing registrY Protocol、研究代表者:藤原 康弘)の傘下で行われる5つ目の医師主導治験で、中央病院のみで実施する。希少がんは、一つひとつのがんの患者数が少なくまとまった診療データが存在しないことが、研究開発や臨床試験の実施を困難にしている。この課題解決に向けて、国がんではMASTER KEY projectを中心に希少がんを対象とした多くの医師主導治験を積極的に実施している(実施中11件、準備中2件)。
内膜肉腫の約60~70%で認められるMDM2遺伝子の増幅
希少がんの1つである内膜肉腫は、心臓や肺動脈など、血液循環において重要な臓器付近に発生する予後の不良な悪性腫瘍。患者数が極めて少ないために、診療上の課題が他のがん種に比べても多く、標準的な治療法が確立していない。既存の治療方法による治療成績向上が難しい上に、希少疾患であるため、企業による新規治療の開発が期待できない。
内膜肉腫の約60~70%に、MDM2遺伝子の増幅が認められると報告されている。MDM2遺伝子の増幅によりMDM2タンパク質が過剰発現や活性化することによって、がん抑制遺伝子であるp53の作用が制御され、腫瘍形成および腫瘍増殖が生じる可能性が示唆されている。MDM2阻害剤のDS-3032bは、前臨床試験においてMDM2とp53相互作用に対する薬理学的阻害作用およびp53による遺伝子発現の誘導作用が確認されている。これらの背景から、高いアンメットメディカルニーズがあり、早急な治療開発が急務とされている「MDM2増幅を有する内膜肉腫」を対象として、DS-3032bの有効性および安全性を評価する医師主導治験が計画された。DS-3032bは、第一三共株式会社から治験薬として無償提供される。
これまで世界的にも内膜肉腫のみを対象とした新規薬剤の開発を目的とした臨床試験は行われたことがない。今回の医師主導試験を通じて、製薬企業、日本医療研究開発機構(AMED)、アカデミアの産官学連携を推進し、希少がんの新規治療開発体制を整備することで、わが国の希少がん領域における臨床開発の活性化に貢献できるものと考えると、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース