東アジアで多い原因不明の難治性脳血管疾患
京都産業大学は2月1日、難治性脳血管疾患である「もやもや病」の遺伝的なリスク要因として、新規遺伝子ミステリン(別名RNF213)が脂肪代謝の制御因子であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大タンパク質動態研究所の永田和宏所長、森戸大介主任研究員(現・昭和大学医学部講師)らと、青山学院大学の平田普三教授、北海道大学の北村朗助教らとの共同研究によるもの。研究成果は、細胞生物学の専門誌「The Journal of Cell Biology」のオンライン速報版で公開されている。
画像はリリースより
もやもや病は、日本で60年以上前に発見され、東アジアで多いとされる原因不明の難治性脳血管疾患。脳への主要な血液供給路である内頸動脈が、脳の下部で原因不明の狭窄・閉塞を起こし、血流障害や血液不足(虚血)による虚血発作・脳梗塞を引き起こすとされる。発症は5歳前後の子供に多く、脳への血液供給不足による発達障害を合併する場合もある。虚血に対する生体の自然な反応として、毛細血管の発達とそれによる血流の回復があり、頭蓋内にもやもやとした煙状の毛細血管が発達することが病名の由来とされている。この毛細血管が破れて脳出血を引き起こし、症状をさらに悪化させる場合もある。現在も、もやもや病は原因不明の指定難病である。根治療法は確立されていないが、東アジア人種に発症が偏っていること、一部の患者が家族発症歴を示すことなどから、遺伝要因の関与が疑われている。
同研究グループはこれまでに、もやもや病の責任遺伝子として、ミステリンを見出していた。
代謝バランスの破たんによって発症する可能性
研究グループは今回、ミステリンタンパク質の細胞内局在を高解像度の共焦点レーザー顕微鏡により観察。すると、直径1μm程度の球状構造を形成していること、球状構造の内側に中性脂肪が蓄積しており、それが脂肪滴と呼ばれる細胞内の脂肪貯蔵サイトであることが判明した。また、ミステリンが脂肪滴上に局在していたことから、脂肪代謝と関係を調べたところ、ミステリンがある状態では脂肪滴の数が増え、ない状態では脂肪滴が細胞内から消失した。
これらの結果から、ミステリンが細胞内の脂肪貯蔵部位である脂肪滴に局在し、脂肪分解酵素から脂肪滴を保護して細胞内の脂肪蓄積を増やす働きを持つ「脂肪代謝の制御因子」であることが明らかになった。
これまでもやもや病患者において顕著な脂質代謝異常は見出されておらず、もやもや病と脂質代謝の関係についてはまったく着目されていなかったが、今回の研究成果により、もやもや病が代謝バランスの破たんによって引き起こされる疾患の一種である可能性が示された。研究グループは「今後、代謝異常の観点からもやもや病発病プロセスの再検討を行うことが必要と考えられる」と、述べている。
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