腎生検より患者負担の小さい検査法を開発したい
名古屋大学は2月1日、膠原病に合併する糸球体腎炎では、白血球の表面分子の尿中での上昇で重症度が推測できることを証明したと発表した。この研究は同大大学院医学系研究科腎臓内科学の北川章充元大学院生、丸山彰一教授、藤田医科大学腎臓内科学の坪井直毅准教授ら、群馬大学および埼玉医科大学らの共同研究グループによるもの。研究成果は、国際腎臓学会雑誌「Kidney International」に1月31日付で掲載された。
画像はリリースより
腎機能低下を引き起こし、末期の腎不全患者の20%を占める糸球体腎炎の診断および治療法の決定には腎生検が必須である。腎生検で得られた病理組織情報は、症状を確認するために有用だが、検査後の出血リスクや入院安静を要するため、患者負担の大きい検査とされ、代替となる非侵襲的検査法が望まれていた。
糸球体腎炎の活動期には、白血球が糸球体へ集まり炎症を引き起こす。特に「好中球」と「マクロファージ」は急性炎症の原因として知られている。これらの細胞表面には、血管接着に関わる分子Mac-1が存在する。今回研究グループは、Mac-1の構成分子である「CD11b」が尿中に漏れ、その濃度を評価することにより、糸球体での白血球集積を推測することが可能ではないかという仮説を立て、患者検体で解析した。
尿中CD11bとループス腎炎や血管炎関連腎炎が相関
研究グループはまず、さまざまな腎糸球体疾患272例の腎生検組織を観察。全身性ループスエリテマトーデスに合併する糸球体腎炎(ループス腎炎)、および血管炎関連腎炎の糸球体でCD11bをもつ白血球数が増加していることを認めた。さらに、ループス腎炎患者118例では、疾患活動性が高く強い治療を必要とするクラス3・4のグループで特に顕著であることを明らかにした。クラス3・4の活動性ループス腎炎患者と血管炎関連腎炎患者では、尿中CD11bが上昇する特徴がみられ、糸球体のCD11b陽性白血球数と強い相関が認められた。群馬大学、埼玉医科大学が収集した患者群でも同様の結果がみられ、かつ治療により尿中CD11b低下も認められた。
さらに研究グループは、CD11b以外にも、白血球表面分子(CD163, CD16b)、炎症物質(MCP-1)、腎機能指標(血清クレアチニン、尿タンパク)などについても検討した。結果、CD11bが他に比べはるかに優れた感受性および特異性を有することが証明された。これらの腎炎特異性は、マウスや細胞を用いた実験でも確認した。
腎生検から尿検査への移行に期待
今回の研究により、尿中のCD11bがループス腎炎や血管炎患者の腎糸球体炎症の白血球集積を反映することが示された。この検査は、尿中のCD11bを測定するため、出血の危険を伴う組織診断に代わり有用だと考えられる。
同研究グループは、すでに中国、メキシコとの間で、同診断法の異なる人種間での整合性評価を目的とした国際共同研究を開始。今後も参加国の増加を計画し、短期間に重篤な経過に陥ることの多い血管炎関連腎炎についても解析を進めていきたいとしている。また今後は同診断法の実用化に向け、診療現場での簡便性と正確性を両立した検査試薬開発を予定している。
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