肝細胞に見られる核内脂肪滴の謎に迫る
名古屋大学は1月29日、細胞の核内で脂肪滴(中性脂肪のかたまり)が形成されるメカニズムを解明し、さらに核内脂肪滴が持つ機能を初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科分子細胞学分野のソウティシク カミル大学院生、大﨑雄樹准教授、藤本豊士教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際総合学術誌である「Nature Communications」電子版に1月28日付で公開された。
画像はリリースより
脂肪滴は細胞が中性脂肪を蓄える構造で、エネルギー産生やタンパク質分解など、細胞が生存するために重要な機能を担っている。ある種の疾患では脂肪滴が大きく増減することが知られており、肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝では、肝細胞の中の脂肪滴が異常に増加する。脂肪滴は、ミトコンドリアなどと同じく、細胞質にある小器官と考えられてきたが、近年、肝細胞では細胞の中の核にも脂肪滴が存在することが分かり、その形成機構と機能の解明について注目されていた。
生体膜脂質の合成を活性化し、小胞体ストレスを緩和
肝細胞では、小胞体の中にある「MTP」というタンパク質の働きによって、小さな脂肪球(リポプロテイン前駆体)が作られ、VLDL(超低密度リポプロテイン)として細胞外に分泌される。核内脂肪滴が肝細胞に多いことに注目した研究グループは、リポプロテイン合成と核内脂肪滴形成が関係するのではないかと考え、MTPを薬剤で阻害した。結果、VLDL分泌が減少するだけでなく、核内脂肪滴の形成も顕著に減少することが判明した。
肝細胞由来の培養細胞には、核膜の一部が核の中に向かって延びた「核膜延長構造」が豊富に存在する。研究チームは生きている細胞の中の分子の動きを観察する顕微鏡技術を用いて、小胞体ストレスにさらされた細胞では、この核膜延長構造の中にリポプロテイン前駆体が蓄積し、核膜延長構造の一部が破れると蓄積したリポプロテイン前駆体が核の中に侵入して核内脂肪滴となることを明らかにした。さらに研究チームは、細胞膜の主成分であるホスファチジルコリン(PC)を合成する際に決定的な役割を担う酵素「CCTアルファ」が核内脂肪滴に分布すること、小胞体ストレス下の細胞では、核内脂肪滴の形成、CCT アルファの核内脂肪滴分布、PC合成が顕著に増加することも見出した。また、ペリリピン3というタンパク質がPC合成を減少させるスイッチとして働くことも明らかとなった。
今回の結果は、核内脂肪滴が小胞体ストレスを軽減させるメカニズムの一端を担っていることを示したものと言える。肝臓はリポプロテイン分泌のほか、タンパク質や脂肪の合成・代謝、薬物代謝など多くの働きを担う臓器であり、常に小胞体ストレスの危機にさらされている。正常な肝細胞には、小胞体ストレスに対抗して正常な機能を維持するための仕組みが備わっているが、そのような仕組みの破綻は脂肪肝などを引き起こす。今回の結果をもとにして、核内脂肪滴の形成やPC合成を調節することができれば、脂肪肝などの発症の予防や治療への応用が可能になると考えられると研究グループは述べている。
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