不明だった神経発達障害とX染色体不活性化の関係
信州大学は1月25日、女性特有の神経発達障害のひとつであるMICPCH症候群の病態メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大バイオメディカル研究所神経難病学部門/医学部分子細胞生理学教室の田渕克彦教授、同医学部分子細胞生物学教室の森琢磨助教らの研究グループによるもの。研究成果は英科学誌Nature系医学誌「Molecular Psychiatry」電子版に1月4日付で掲載された。
画像はリリースより
ヒトの性別は性染色体XとYの組合せで決まる。女性は2本のX染色体、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っている。発生の初期に女性では2本あるX染色体のうちの一方が不活性化され、1本のX染色体のみから遺伝子が発現することが知られている。X染色体不活性化は、ヒトだけでなく、哺乳類全般にみられる。2本の染色体のどちらが不活性化されるかは、個々の細胞ごとに異なる。神経発達障害の中には、X染色体上の遺伝子が原因となって女性特有に発病するものがあるが、X染色体不活性化がこれらの病気にどう関わっているかについては全く知られていなかった。
X染色体不活化によりシナプスのバランスが崩れていた
MICPCH症候群は、出生時、またはその後の明らかな小頭症、重度の精神遅滞、てんかんなどを特徴とする疾患。患者のほとんどが女性であり、原因遺伝子はX染色体上にあるCASKで、その遺伝子産物は、シナプスに存在して、さまざまな分子と結合し、神経の働きに関与する酵素であることが知られている。
研究グループは今回、このCASKに着目。遺伝子操作によって2本のX染色体の一方にだけCASKを持つ雌マウスを作製した。この雌マウスの脳では、X染色体不活性化の結果、CASKが発現する神経細胞とCASKが失われた神経細胞が混在していた。神経細胞は「シナプス」と呼ばれる構造によって隣り合う神経細胞と連絡を取り合う。シナプスには神経を興奮させるものと、神経を抑制させるものの2種類があり、脳が適切に働くためにはこの2種類のシナプスがバランスよく働くことが必要とされる。CASKが失われたマウスの神経細胞では、興奮性シナプスの数が増加し、抑制性シナプスの数が減少していた。一方、CASKを正常に発現しているマウスでは、このような異常は見られなかった。研究グループはさらに解析を進め、この異常なシナプスの形成はGluN2Bと呼ばれる神経伝達物質受容体の発現が低下していることによって引き起こされることを突き止めた。
今回の研究によって、X染色体不活性化による神経発達障害の病態形成のメカニズムが明らかとなった。精神発達遅滞やてんかん、統合失調症、自閉症といった神経の病気は、シナプスの機能異常が密接に関係すると考えられることから、この研究が将来の治療戦略を考える上で大いに役立つと期待される、と研究グループは述べている。
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