限られた一部の人に、がんや難病を発症させるEBウイルス
名古屋大学は1月24日、原因不明の難病である慢性活動性EBウイルス感染症の遺伝子解析を行い、その原因を解明したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院先端医療開発部の奥野友介特任講師、同大大学院医学系研究科ウイルス学の木村宏教授、藤田医科大学ウイルス・寄生虫学の村田貴之教授、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学の小川誠司教授、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授らの研究グループによるもの。研究成果は、Nature Publishing Groupの科学誌「Nature Microbiology」の電子版に掲載されている。
画像はリリースより
EBウイルスは95%の人が成人までに感染するウイルスの一種。通常は風邪のような症状だけで治癒するが、ごく一部の人は、EBウイルス関連がんや、その他の難病を発症する。しかし、なぜ一部の人にだけ重大な病気を発症させるのかは、これまで明らかにされていなかった。
EBウイルスが原因の「慢性活動性EBウイルス感染症」は、日本で年間約数十人が発症する原因不明の難病。本来は数週間程度で収まるEBウイルス感染に伴う炎症が何年間も持続し、蚊アレルギーや種痘様水疱症などの症状が出るほか、EBウイルスに感染した細胞が多臓器に侵入して破壊したり、異常に増殖して白血病のような状態になったりするなど、命にかかわるさまざまな合併症を引き起こす。抗がん剤治療や、造血細胞移植が有効だが、移植を受け付けない場合、診断から15年生存できる可能性は25%にとどまっている。これまで病気の原因として、免疫系の異常でEBウイルスを排除できない可能性や、特別なタイプのEBウイルスが、それらの病気を引き起こしている可能性などが考えられていた。
EBウイルスの遺伝子欠損がさまざまな血液がんを引き起こす
研究グループは今回、次世代シーケンサーを用いて、慢性活動性EBウイルス感染症の患者80人を解析し、原因の解明を試みた。その結果、EBウイルスが感染した血液細胞の遺伝子に、DDX3X遺伝子というEBウイルスが関与する血液がん(バーキットリンパ腫や節外性NK/T細胞リンパ腫)でよく変異が見られる遺伝子に変異が集積していることが判明。これにより、慢性活動性EBウイルス感染症が血液がんの一種であることが明らかとなった。次に、病気が進行し、最終的に血液がんのような状態まで進展した患者の遺伝子解析を実施。その結果、病気の進行とともに、EBウイルスに感染した血液細胞は、さまざまな遺伝子変異を獲得していることがわかった。特に、DDX3X 遺伝子変異には異なる3種類の遺伝子変異が生じており、この病気の進展に重要な役割を果たしていると考えられるという。
また、EBウイルスの遺伝子解析を実施した結果、慢性活動性EBウイルス感染症に関わるEBウイルスがいくつかの遺伝子を失っていることが判明。これにより異常に活性化した同ウイルスが、がんを発症させていることを明らかにした。この遺伝子を失ったEBウイルスは他の血液がん(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫)でも見つかり、同じ仕組みを使って、さまざまな血液がんを発症させることもわかったという。
今回の研究で、慢性活動性EBウイルス感染症の原因と、一部の人にがんを引き起こす仕組みが明らかにされた。研究グループは、「これらの発見を病気の治療に役立てるためには、今後、さらなる研究が必要である。例えば、慢性活動性EBウイルス感染症について、見つかった遺伝子変異に対する特別な治療薬の効果を検証すること(肺がんなどですでに臨床応用されている、PD-L1遺伝子変異に対する免疫チェックポイント阻害薬など)や、遺伝子変異の有無によって治療法の効果に違いがないかを検討すること(抗がん剤治療や造血細胞移植を受けた患者の遺伝子解析)が必要だ」と、述べている。
▼関連リンク
・名古屋大学 プレスリリース