さまざまな分野でニーズのあるTJのバリア機能を計測
東京医科歯科大学は1月24日、上皮タイトジャンクションによるバリア機能を選択的に計測する新たな電気化学的手法を開発したと発表した。この研究は、同大生体材料工学研究所の合田達郎助教、宮原裕二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術雑誌「Analytical Chemistry」のオンライン版に2018年12月31日付で発表された。
多細胞生物には「細胞間接着」という共通の構造が見られ、特に、体表面や臓器表面を構成する上皮(内皮)細胞には、「タイトジャンクション(TJ)」と呼ばれる強固な細胞-細胞間接着が存在し、組織のバリア機能を担っている。化学毒物や生物毒素の暴露によってTJが破綻すると、重篤な症状を招く。また、発生の過程や、炎症、細胞のがん化によって、TJは消失する。さらに、TJの異常によって、免疫障害、炎症、潰瘍などが引き起こされることが明らかになっている。したがって、TJのバリア機能を計測することは、さまざまな分野でニーズがある。
現在、TJバリア性を測る標準的な手法として、「経上皮電気抵抗法(TEER)」と「透過率法」が用いられている。一方で、これらの手法は、(1)TJのバリア機能を選択的に計測できない(2)細胞シートの形状(凹凸など)に影響を受ける(3)細胞シートの局所的な変化を検出できない(4)バリア機能の急速な喪失などの素早い変化をとらえられない、という問題点があり、これらの課題を解決する新しい測定手法の開発が求められていた。
水素イオンの動きでTJバリアの破綻を非侵襲・選択的に評価
水素イオン(H+)は、世の中に存在する最小の分子だが、正常なTJを容易に通過できない。研究グループはこの性質に着目し、TJでの水素イオンの「動き」を電気化学的に計測することによって上皮バリアの破綻を検出する新しい方法を開発した。上皮細胞シート近傍での水素イオン濃度(pH)を正確に測定するために、既存のpHセンサーであるイオン応答性電界効果トランジスタ(ISFET)上に、直接、上皮細胞を培養。細胞の代謝にともなう緩やかなpH変動の影響を受けないようにするために、細胞毒性のない塩化アンモニウムを外部刺激として加えた際のpHの過渡的な変動(pH摂動)から、TJバリアの破綻を非侵襲かつ選択的に評価できることを見出した。
画像はリリースより
実際に、TJを形成する/しない細胞を用いて、TJを解消させる化合物を細胞に作用させたところ、TJ形成細胞においてのみ特徴的な変化が見られた。一方、従来法であるTEER法では、もともとTJを形成していなかった細胞においてもインピーダンスの変化が観測された。これにより、新たな手法は従来法より選択性に優れていることが確認された。次に、TJに特異的に作用する生物毒素「ウェルシュ菌エンテロトキシン(CPE)」を用いて上皮バリアを破綻させたところ、同手法は、TEER法と比べて検出感度が10倍以上だった。
従来、困難であった上皮バリア機能の非侵襲・選択的・高感度な評価の実現は、がんや病気の機構解明、動物実験代替的な毒性評価や感染実験、高スループットなTJ標的創薬スクリーニングなど、基礎・応用の両方で利用価値が高い、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース