ASDや統合失調症の脳内ネットワークをAIで推定
名古屋大学は1月24日、自閉スペクトラム症(ASD)や統合失調症の発症に関わる可能性のある脳領域間の関係性(脳内ネットワーク)を推定する人工知能(AI)手法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科システム生物学分野の川久保秀子特任助教、島村徹平特任准教授、精神医学・親と子どもの心療学分野の尾崎紀夫教授、同大高等研究院の久島周特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の科学雑誌「Bioinformatics」電子版に1月15日付で掲載された。
ASDや統合失調症に代表される精神障害は、遺伝要因(ゲノム)と環境要因の複合的要因による脳機能障害を原因とする疾患だが、その発症に関連する、分子、細胞、回路レベルの脳内メカニズムは未だ十分に解明されていない。これまで、両疾患と特定の脳部位との関係は多く研究されてきたが、脳領域間の関係性の全体像を明らかにした研究はない。発症や病態のメカニズムを解明する上では、疾患に関わる脳領域間の関係性(ネットワーク)を詳しく調べることが重要であり、今回研究グループは、AIを用いて全体像の把握に挑戦した。
他領域への影響やネットワーク類似性が明らかに
同研究グループは、AI技術のうち「機械学習」と呼ばれる技術を活用して開発した手法を、疾患に関わる遺伝子群と脳領域ごとの遺伝子ネットワークに適用。この、脳領域ごとの遺伝子ネットワークに基づき、遺伝子ネットワークが領域ごとに他のどの脳領域の遺伝子ネットワークと関連するかを推定し、疾患に関わる脳内ネットワークのモデルを構築した。これを用いて、ASDや統合失調症に関わるゲノム変異の影響が脳の各領域へどのように伝播し、疾患に関わるネットワークを形成しているのかについて解析をした。
画像はリリースより
結果、疾患と強い関係があることが知られている扁桃体、前頭葉を中心にして、脳のさまざまな領域(側頭葉、海馬、視床など)にゲノム変異の影響が伝播していることが推定された。また、ASDと統合失調症の脳内ネットワークを比較したところ、両疾患で約80%のネットワークの類似性があることも確認されたという。
今回の研究成果は、今後、個別化医療において、個々のゲノム情報に基づいた新しい診断法や治療法の開発の基盤になることが期待されると研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース