重篤な続発症につながるA群β溶血性連鎖球菌
岡山大学は1月23日、日本国内の咽頭炎に対する抗菌薬治療の実態を明らかにする研究結果を発表した。この研究は、同大大学院ヘルスシステム統合科学研究科の狩野光伸教授と同大大学院医歯薬学総合研究科の小山敏広助教、札幌医科大学・大阪大学・徳島大学病院など複数の研究機関と医療機関の研究者らとの共同研究によるもの。研究成果は「Journal of Infection and Chemotherapy」に掲載されている。
画像はリリースより
急性咽頭炎は、急性の喉の痛みを主症状とする臨床的に頻度の高い疾患。細菌による急性咽頭炎の多くはA群β溶血性連鎖球菌(GAS)が起炎菌だが、適切な治療を行わないとリウマチ熱や扁桃周囲膿瘍など重篤な続発症につながることがあるため、抗菌薬治療が推奨されている。GAS迅速抗原検査または培養検査でGASが検出された急性咽頭炎に対しては、成人・小児ともにペニシリン系抗菌薬(日本国内はアモキシシリン)10日間の内服投与が第一選択として推奨されている。
一方、GAS咽頭炎以外の細菌性咽頭炎に対する抗菌薬治療の必要性については、現時点では国際的な合意に至っておらず、また日本国内での急性咽頭炎に対する実際の治療の状況については、これまで知られていなかかった。
国内でのGAS迅速抗原検査実施は5.6%
研究グループは、2013~2015年の日本国内における127万回の急性咽頭炎による外来受診を調査。その結果、GAS迅速抗原検査が実施されたのは、全体の5.6%であることが判明した。一方、抗菌薬は全体の59.3%に処方され、そのうちGAS咽頭炎の第一選択薬であるペニシリン系抗菌薬が選択されたのは10.8%であったという。
また、これらのGAS検査の実施率や抗菌薬の処方割合は、医療施設の規模、診療科、患者の年齢によって大きな違いがあることが判明。大規模の医療施設、小児科、3~15歳の患者では、GAS迅速抗原検査が高頻度に実施されており、抗菌薬の処方割合は少なく、処方された抗菌薬全体に占めるペニシリン系抗菌薬の割合が高かったという。
欧米では小児の咽頭炎治療の50~60%でGAS検査を実施と報告されている。皆保険制度の日本では、比較的軽症の段階で外来受診することが多いと考えられ、諸外国の数値と直接比較することは難しいと考えられるが、日本国内でのGAS迅速検査の実施割合は、非常に低い可能性が今回の研究により示唆された。研究グループは「薬剤耐性菌対策は保健関連SDGs(Sustainable Development Goals)とも密接に連携して進められており、本研究の取り組みが国際的なSDGsの達成へ貢献することができることを期待している」と、述べている。
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・岡山大学 プレスリリース