プロジェクトに対する5つの批判に反論
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は1月23日、「Journal of Medical Ethics」(JME)2018年10月号に掲載された「iPS細胞ストック・プロジェクト」に対する赤林氏らの批判に対し反論を試みた論文報告を行ったと発表した。この論文は、CiRA上廣倫理研究部門の藤田みさお教授と医療応用推進室の田渕敬一准教授によるもので、JME誌に1月11日付で掲載された。
「iPS細胞ストック・プロジェクト」とは、HLAホモ接合体の細胞を有する健康なドナーからiPS細胞を作製し、あらかじめさまざまな品質評価を行った上で、再生医療に使用可能と判断できるiPS細胞株を保存するプロジェクト。2018年に発表された論文では、このプロジェクトに対する5つの批判が呈された。今回の論文では、その5点に対し、以下のように反論している。
開かれた誌上で自由な議論を行うことも重要
1つ目は、iPS細胞ストック・プロジェクトに国家予算を投じることを決定したプロセスの透明性に問題があるとの批判。これに対し同論文では、日本政府が予算決定する際の公開されたプロセスを具体的に挙げ、当該プロジェクト予算も同様の手続きを経ており、透明性に問題はないと指摘した。
2つ目は、同プロジェクトで樹立した細胞株を臨床に用いても、免疫型が適合する30~50%の日本人人口しかカバーできないため、直接恩恵が受けられない残り50~70%の人が支払う税金を使うことは不公平だという批判。これに対し同論文では、iPS細胞ストックはドナーから取得した同意の範囲であれば、免疫型が適合しない患者にも移植可能な高品質で安全性が高い細胞であるという事実を挙げてこれに反論した。
3つ目は、国が国民に対して同プロジェクトに関する質疑応答の機会を提供していないとの批判。これに対しては、同プロジェクトを含む国家プロジェクト「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」で毎年開催される一般市民への公開シンポジウムについて触れ、質疑応答の機会は確保されていると説明。
4つ目は、一部のプロジェクトに国家予算が集中すると、がんや循環器疾患など、他の重篤な難治性疾患に取り組む国力が落ちると批判。これに対しては、同プロジェクトの立ち上げ前後でがん研究の予算配分に大きな変化はない事実や、定期的な予算見直しのシステムの存在を指摘し、特定のプロジェクトへの重点投資によって、他分野を扱う国力が減じない評価システムがすでに存在していることを示した。
最後に、赤林氏らの論文では、理化学研究所による疾患特異的iPS細胞バンクは希少難治性疾患に対する創薬に役立つため、同プロジェクトよりも国家予算を投じるに値すると論じられていた。これに対し同論文では、疾患特異的iPS細胞バンクは確かに重要であるが、同プロジェクトで作られた細胞が、希少難治性疾患に対する創薬以外にもあらゆる研究に利用可能であり、国家予算を投じる社会的利益が期待できると反論した。
同研究グループは、よい議論のためには、まず正確な事実把握を行うことが不可欠と考えており、同様に、今回のように開かれた誌上で自由な議論を行うことも重要なことだと述べている。
▼関連リンク
・京都大学iPS細胞研究所(CiRA) プレスリリース