近視が進みやすい学童期に有用なアプローチが望まれている
慶應義塾大学は1月23日、クチナシ由来の色素成分「クロセチン」に近視進行抑制に関連する遺伝子のひとつである「EGR-1」の発現量を増やす効果があること、および、近視誘導モデルでクロセチンが近視進行の程度を示す「眼軸長の伸長」や「屈折度数の変化」を有意に抑制することを世界で初めて確認したと発表した。この研究は、同大医学部眼科学教室の坪田一男教授、栗原俊英特任准教授、森紀和子(大学院医学研究科博士課程3年)らの研究グループが、ロート製薬株式会社と共同で行ったもの。研究成果は、学際的総合ジャーナル「Scientific Reports」に1月22日付で掲載されている。
画像はリリースより
近年、全世界で近視の有病率が増加し、人類の3分の1が近視だと言われている。日本においても高校生の6割以上、中学生の5割以上、小学生の3割以上が視力1.0未満であると、文部科学省が調査報告をしている。近視は生活の不便さだけでなく、状態によっては視覚障害に繋がる可能性があり、社会問題となっている。強度近視を防ぐためにも、特に近視が進みやすい学童期に有用なアプローチが望まれている。
クロセチンが「EGR-1」の発現を高めて近視進行の指標を抑制
研究グループは先行研究で、屋外環境に豊富にある波長域360-400nmの光が近視進行を抑制することを発見。この光を浴びると実験近視モデルで眼軸長伸長が抑制され、近視を抑制する遺伝子のひとつとして知られている「early growth response 1(EGR-1)」が有意に上昇していることを確認している。今回はこのEGR-1に着目し、EGR-1遺伝子の発現を高める食品素材のスクリーニングを実施した。その結果、200種以上の素材の中でもクチナシ由来の色素成分であるクロセチンに、極めて高いEGR-1 発現促進効果があることを発見した。
また、同大で開発した、凹レンズを装用させて近視を誘導するモデルマウスにクロセチンを投与して解析した結果、近視化の指標である「眼軸長の過剰伸長」「屈折度数の変化(近視化)」が有意に抑制されることが確認された。さらに、眼軸が伸びて近視が強くなると、見え方が変化するだけでなく、網膜の外側にある「脈絡膜」という部分が薄くなるという現象が伴うが、クロセチンを投与したところ、このような脈絡膜の変化が抑制された。
今回の結果はクロセチンが近視進行を抑える可能性があることを示唆する新しい知見だ。今回の知見を活かし、さらに研究を進めることで、子どもの近視進行抑制に有用な製品の開発に繋がることが期待されると研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース