両生類をモデルにして腎尿細管の再生メカニズムを研究
山形大学は1月22日、両生類を用いて、腎尿細管の再生を制御するエンハンサー(遺伝子の発現をオンにするゲノム領域)と、その活性化因子を発見し、それらの働きを解明したと発表した。この研究は、同大医学部メディカルサイエンス推進研究所の越智陽城准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、オンライン英国科学誌「eLife」に1月8日付で掲載された。
画像はリリースより
両生類や魚類は、ヒトと比べて高い組織再生能力を持ち、甚大な損傷を受けても、さまざまな組織を元通りに再生できる。組織再生の仕組みの解明は、医学応用につながることから、世界中で両生類や魚類を使った再生研究が進められている。組織を再生するためには、さまざまな遺伝子が必要とされるが、それらの多くは、ヒトを含めた脊椎動物の胚発生で使われたものが再利用されている。しかし、どのようにして胚発生で使われた遺伝子が再利用されるのか、これまでその仕組みはほとんどわかっていなかった。
再生関連遺伝子のエンハンサーとその活性化メカニズムを発見
今回研究グループは、両生類の腎尿細管の再生過程で発現が亢進するlhx1遺伝子に着目。再生中の腎管でlhx1遺伝子の発現をオンにするエンハンサーを、「トランスジェニック・レポーター解析」という方法で探索し、その発見に成功した。研究グループは、これらを、再生シグナル応答エンハンサー (Regeneration Signal Response enhancer: RSRE)と命名した。
次に、RSREが、組織再生中に活性化されるメカニズムを調べた。その結果、エンハンサーに転写因子Arid3aが結合し、エピゲノム修飾が変化して活性化されると判明した。具体的には、Arid3aが、ヒストンH3タンパク質の9番目のリジンのトリメチル化(H3K9me3)を脱メチル化する酵素Kdm4aを呼び込み、エンハンサーのエピゲノム状態を変えていた。さらに、Arid3aの働きを阻害すると、腎管の再生が起こらないことも発見した。
今回の研究により、腎尿細管の再生で利用する遺伝子の発現をオンにするエンハンサーが新たに見出され、それを活性化する仕組みの一端も明らとなった。このエンハンサーはヒトゲノムにも存在しているため、ヒトにおいても同様の仕組みが潜在的には存在すると考えられる。例えば、Aid3aの働きを人為的に制御し、損傷を受けた後にエンハンサーの活性を高める方法を開発できれば、ヒトの腎尿細管の再生を促進する新たな治療法の開発につながる可能性があると研究グループは述べている。
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・山形大学 プレスリリース