「代謝で免疫記憶をコントロール」を目指す
千葉大学は1月18日、脂肪酸代謝制御による免疫記憶システムの解明を行ったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院免疫発生学教室の中山俊憲教授の研究グループが、かずさDNA研究所先端研究開発部オミックス医科学研究室の遠藤裕介室長の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、米科学誌「Nature Metabolism」オンライン版1月14日付で掲載された。
画像はリリースより
ウイルスや寄生虫をはじめとした感染に対しては、免疫記憶システムをうまく利用した「ワクチン」が効果的だ。免疫記憶は、外来抗原を認識し、一過性に増殖したT細胞のうちのごく一部が、抗原の排除後も「記憶T細胞」として生体内で長期間生存し、次回の応答に備えている状態を指す。免疫記憶の司令塔とも言える記憶T細胞は、その重要性にも拘わらず、生体内で長期間生存するメカニズムは明らかになっていなかった。一方で、T細胞が分化段階(ナイーブ→エフェクター→記憶T)に応じて全く異なる代謝経路を使用していることが明らかになりつつある。そこで研究グループは、「代謝で免疫記憶をコントロール」することを目標に、今回の研究に取り組んだ。
脂肪酸代謝を抑制することで免疫記憶が増強
研究グループは、マウスを用いた実験で、多くの代謝経路と記憶T細胞形成について解析を重ねた。結果、ACC1という脂肪酸合成酵素の経路を抑制することで、より多くの記憶T細胞が形成されることを発見した。また、ACC1遺伝子欠損マウスに寄生虫を感染させたところ、ACC1が正常なマウスより多くの記憶T細胞が形成され、効率よく寄生虫が排除されることがわかった。以上により、脂肪酸代謝を制御することで免疫記憶が増強し、ワクチンの効果を高められる可能性が示された。
研究グループはさらに、ACC1を抑えるとなぜ記憶T細胞が増強するのかについて、解析を進めた。動的な代謝(解糖系優位)をするエフェクターT細胞に比べ、記憶T細胞は、省エネ型(TCAサイクル優位)の代謝状態になっていることが知られている。今回「メタボローム解析」という方法で調べた結果、ACC1を抑えた場合、「代謝のリプログラミング」が起こり、エフェクターT細胞が、記憶T細胞のような省エネ型の代謝状態になっていることが分かった。次に、各分化段階のT細胞について、記憶T細胞に選ばれる細胞の性質を「Single-Cell Real Time PCR」という方法で解析した結果、エフェクターT細胞の中で一部ACC1の発現が低い集団が存在することを発見。この集団をさらに細かく調べたところ、これまで同定されていなかった、記憶T細胞へと分化しやすい「記憶T前駆細胞」が発見された。
今回の成果は、生強力で長期に効果のある予防接種の開発や、慢性炎症性の疾患治療の開発への貢献につながると研究グループは述べている。
▼関連リンク
・千葉大学 ニュースリリース