従来は「線維化」が腎機能を低下させると考えられていた
京都大学は1月18日、これまで考えられていたのとは逆に、「線維化」が腎臓を修復する可能性を見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の柳田素子教授、中村仁博士課程学生(現アステラス製薬)らの研究グループによるもの。研究成果は1月17日付で、国際学術誌「Kidney International」オンライン掲載された。
画像はリリースより
日本では、10人に1人が慢性腎臓病に罹患している。慢性腎臓病が進行すると、透析や移植が必要な慢性腎臓病に陥る。進行した慢性腎臓病では腎臓の「線維化」が認められるため、これまでは「線維化」が腎機能を低下させると考えられてきた。そのため、さまざまな「線維化治療薬」の開発が試みられているが、今のところ腎臓病に臨床応用されたものはない。
研究グループは以前、腎臓の尿細管が障害されると、周囲の「線維芽細胞」の性質が変わり、線維化が起きることを見出した。このことから同グループは、尿細管障害による線維化の誘導には、何か「合目的性」があるのではないかと考えた。そこで、線維芽細胞と尿細管細胞のクロストーク(相互干渉)に着目して今回の研究を行った。
線維化を促す細胞が尿細管の修復を助ける可能性
研究グループはまず、線維芽細胞のタンパク質合成を任意の時点で停止させるマウスを作成し、このマウスを用いて研究を実施した。その結果、健康な腎臓で線維芽細胞のタンパク質合成を停止させると尿細管の障害と増殖が起きた。一方で、障害された腎臓で線維芽細胞のタンパク質合成を停止させると、尿細管の障害が悪化し、修復ができなくなった。以上のことから、線維芽細胞からは尿細管の修復を促進し、健康な状態を維持する物質が出ていると考えられた。
その物質を探索するため、線維芽細胞のタンパク質合成を停止させた腎臓で変化している遺伝子を調べたところ、レチノイン酸関連のシグナルが低下していることが見出された。実際に、レチノイン酸合成酵素は健康な尿細管に発現しているが、今回の研究では、尿細管障害とともにその発現が失われ、かわりに性質変化した線維芽細胞が非常に強いレチノイン酸合成能を獲得することがわかった。また、レチノイン酸は尿細管の増殖を促進して修復させる作用を持つことも判明した。さらにヒト腎臓病組織を調べると、進行した腎臓病では、線維芽細胞がレチノイン酸合成酵素を発現していた。以上より、障害尿細管による周囲の線維芽細胞の線維化には、尿細管を修復するレチノイン酸の合成酵素を獲得させるという「合目的性」があること、つまり、線維化に尿細管を修復するという「正の側面」がある可能性が示唆された。
現在、線維化が腎臓病の悪化因子のように考えられ「線維化治療薬」が開発されているが、今回の結果は、「線維化治療薬」の問題点を示唆するとともに、尿細管を修復する重要性を裏付けていると研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果