分子標的薬から腫瘍細胞の一部が生き残る仕組みを明らかに
金沢大学は1月16日、上皮成長因子受容体(EGFR)変異肺がんにおいて、分子標的薬にさらされた腫瘍細胞の一部がアクセル(AXL)というタンパク質を使って生き延びるという新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大学がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の矢野聖二教授、京都府立医科大学の山田忠明講師、長崎大学病院の谷口寛和助教らの共同研究グループで行われたもの。研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に1月19日付で掲載された。
画像はリリースより
がんの分子標的薬は奏効率が高いものの、腫瘍の一部が消えきらずに生き残り、残った腫瘍が薬に耐性を獲得して大きくなり再発することが問題となっている。これまでの研究では、がんが分子標的薬に耐性化する原因を見つけ、耐性腫瘍にも効く「新世代分子標的薬」が作られてきたが、新世代分子標的薬に対しても耐性が起こるため、耐性との「いたちごっこ」が続いている。
EGFR抑制でAXLが活性化
今回の研究では、EGFR変異肺がんにおいて、新世代分子標的薬「オシメルチニブ」にさらされた腫瘍細胞の一部が生き残るメカニズムを解明した。変異したEGFRタンパク質からの生存シグナルにより増殖していているがん細胞は、同じく生存シグナルを送る能力を有するAXLタンパク質の方には、SPRY4というタンパク質でブレーキをかけている。細胞に送られる生存シグナルがあまりにも強すぎると、逆に死んでしまうためだ。
しかし、新世代分子標的薬オシメルチニブにさらされた時にはEGFRタンパク質からの生存シグナルが抑制される。すると、SPRY4によるブレーキがはずれ、AXLが活性化されてがん細胞が生き延びるための生存シグナルを補う。こうした一連のシグナル応答により、一部のがん細胞が抵抗性細胞として生き残るというメカニズムが、今回明らかとなった。
さらに動物実験などでAXL阻害薬を新世代分子標的薬と併用すると、がん細胞がほぼ死滅し、結果、再発を著明に遅らせることが確認されたという。今回の研究成果により、がん細胞がAXLを高発現している患者に、治療当初から分子標的薬とアクセル阻害薬を併用した治療をすることで腫瘍を消しきり、根治あるいは再発までの期間を著明に延ばせることが期待されると研究グループは述べている。
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