標準的な治療が難しい患者への新たな治療法
岡山大学は1月8日、食道がんに対する腫瘍選択的融解ウイルス製剤「テロメライシンン(Telomelysin、OBP-301)」を用いた放射線併用ウイルス療法の臨床研究について、最終報告を行った。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義教授、白川靖博准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国サンフランシスコで1月17日~19日に開催される「米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI)」で発表される予定だ。
食道がんは、嚥下機能や呼吸機能への影響が大きいことや、合併症を有する高齢患者が多いことから、広い範囲のリンパ節切除を伴う手術や一般的な抗がん剤治療が難しい症例が増えてきている。多くの場合、進行すると口から食べられなくなり、生活の質(QOL)の低下は免れないとされている。そこで、標準的な治療が難しい患者へ向け、新たなやさしい治療法が望まれていた。
大きな副作用もなく、13例中8例で食道の腫瘍が消失
テロメライシンンは、岡山大学で開発された国産の抗がんウイルス製剤。感染したがん細胞を殺傷するとともに、放射線に対する感受性を増強することが明らかとなっている。同大学病院では、2013年11月29日から食道がん患者を対象に、同剤の内視鏡的腫瘍内投与と放射線治療を併用する臨床研究を行ってきた。
同剤における治療は、第1日目に内視鏡を用いて食道の患部に0.2mlずつ5箇所に計1ml投与し、第4日目から週10Gyの放射線治療を6週間、計60Gy実施。その間、第18日目と32日目に同剤の腫瘍内投与を追加する。2018年1月16日まで計13例の53~92歳の食道がん患者に治療が実施された。結果、評価可能な12例中11例で腫瘍縮小が認められ、うち8例では食道の腫瘍が完全に消失した(完全奏功、CR)。有害事象としては発熱、白血球減少などが60%以上でみられた。無症候性の一過性のリンパ球減少は全例に認められたものの、いずれも回復しており、同治療と明らかな因果関係を有する用量制限毒性(DLT)は観察されなかった。以上により、安全性と有効性が確認できた。
今回の試験により、同剤が、手術や標準的な抗がん剤治療が難しい食道がん患者などに役立つことが示唆された。現在、同大学発ベンチャーの、オンコリスバイオファーマ株式会社が、岡山大学病院と国立がん研究センター東病院で、同様のプロトコールで第I相臨床試験(企業治験)を進行中である。
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・岡山大学 プレスリリース