これら二つの病院は、同じ戸田中央医科グループの系列病院。東所沢病院薬局長の佐藤光氏は、導入の経緯について「グループ内の集まりを通じて以前から新座病院の動きは把握しており、当院も導入したいと思っていた。病院の特徴や患者背景などは当院と似ているため、導入しやすいのではないかと考えた」と振り返る。
昨年4月以降、段階的に4薬効群で導入した。まず取り入れたのは、プロトンポンプ阻害薬(内服)とH2受容体拮抗薬(内服)のフォーミュラリーだ。「概念を医師に浸透させることを目的に、手間や煩わしさが小さくて済む、当院の採用薬が含まれているものから導入を開始した」と佐藤氏は語る。続いて対象にしたのは、薬剤費抑制効果が高く、重篤な副作用リスクの小さい薬効群だ。昨年5月にHMG-CoA阻害薬、昨年8月に尿酸産生抑制薬のフォーミュラリーを導入。盛り込まれた薬剤は院内採用薬ではなかったため、アトルバスタチンのジェネリック医薬品(GE薬)と、先発品の「フェブリク」を新たに採用した上で運用を開始した。フェブリクは、アロプリノールのGE薬を優先的に使用し、効果がない場合にのみ使う薬剤として位置づけている。
同院の療養病棟、回復期リハビリテーション病棟、認知症病棟ではいずれも薬剤費は入院料に包括され、出来高では算定できない。病院経営上、薬剤費の抑制は重要だ。とはいえ、薬剤費抑制だけを主眼として医療の質が低下してしまっては元も子もない。フォーミュラリーは、薬物療法の有効性や安全性を確保しつつ、薬剤費を抑えることに役立つという。
同院ではGE薬が存在する場合はその使用を推奨。その上で、同種同効薬のうち先発品しか存在しない成分とGE薬が存在する成分のどちらを選ぶかは医師に委ねられているが、フォーミュラリーを導入した薬効群においては、その考え方を明示した。先発品しか存在しない成分に比べても、GE薬が存在する成分の有効性や安全性が劣らない場合には、経済性に勝るとしてその使用を推奨。先発品の使用には条件を設け、やみくもに処方されないようにしている。
同院の院長は導入に前向きな姿勢を示し、6人の常勤医師も全て導入に賛同した。医師はフォーミュラリーを参考に処方内容を考え、薬剤師は、持参薬報告書作成時や持参薬切り替え時など、様々なタイミングで推奨薬を提示し変更を促している。「薬剤師は自信を持って医師に推奨薬を提案しやすくなった」と佐藤氏は話す。
今後も導入する薬効群を段階的に増やす計画だ。今年度内にレニン-アンジオテンシン系阻害薬のフォーミュラリーを追加するべく現在、調整を進めている。
一方、29病院が所属する戸田中央医科グループ全体にも今後、共通のフォーミュラリーを広げる考えが浮上しているという。
国が地域包括ケアシステムの構築を進める中、地域の各施設が連携して患者の医療を受け持つ機会は増える。地域でフォーミュラリーを共有し薬物療法を標準化することによって、医療費や在庫医薬品の削減、医療の質の確保など様々な効果が生まれる。佐藤氏は「地域の病院で連携を取り、共通のフォーミュラリーを作成することが地域完結型の医療につながる」としている。